杉江の読書 『幻の屋敷 キャンピオン氏の事件簿2』(猪俣美江子訳/創元推理文庫)

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%e5%b9%bb%e3%81%ae%e5%b1%8b%e6%95%b7 アルバート・キャンピオンは38歳にもなって従順な学童のようにかしこまっていた。齢80近いシャーロット大伯母から押しつけられた調査が進展せず、怠けず動け、と叱責されたのである。彼女が屋敷を2週間留守にした後で帰宅してみると、何者かが侵入した痕跡があったのだという。すべてを気のせいとして片づけたいキャンピオンであったが、見逃せない証拠があった。絶対にこの家のものではないと断言できる便箋が、机の上に遺されていたのだ(「幻の屋敷」)。

マージェリー・アリンガムの創造した名探偵アルバート・キャンピオンの登場する短篇を集めた作品集の第2弾『幻の屋敷』には、1930年代後半から1950年代に発表された11篇と、作者のエッセイ1篇が収められている。そのエッセイの題名が「年老いてきた探偵をどうするべきか」だというのが、皮肉が効いていていい。アリンガムは比較的デビュー年齢が若いほうだが、本書に収録された作品の一番早い「綴られた名前」ものは33歳の時の作品で、すでに老練の味が出てきていることがわかる。続く「魔法の帽子」は、キャンピオンがなぜか流行りの料理店で特別待遇を受けてしまうという状況があって、そこから珍妙な騒動につながる作品だ。新世界で財をなして帰国した大立者が登場する内容でもある。表題作でキャンピオンは、大伯母のために渋々遠征をすることになるのだが、そこではパブに集う田舎者と都会者との反目がさりげなく笑いの種にされている。そうした具合に喜劇的な題材を拾い上げた作品が多いのが本書の特徴だろう。題名からコナン・ドイル「海軍文書事件」を連想する「極秘書類」にしても、内容はスクリューボール・コメディのそれなのである。

結末の意外性では「見えないドア」の切れ味がいいが、そのものズバリを書かずに考え落ちのような形で読者に結末を預ける「面子の問題」が私は気に入った。Face Valueの原題をそうやって訳したセンスもいいではないか。

(800字書評)

→『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿1』の書評を読む。

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