bookaholic認定2016年度国内ミステリー次点 七河迦南『わたしの隣の王国』(新潮社)

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 七河迦南の四年ぶりの新刊、『わたしの隣の王国』のページを繰っていくと、まず登場人物紹介の数の多さに驚かされる。だがそれも当然で、〈ハッピーファンタジア〉という夢の国(言うまでもなく千葉県浦安市にあるアレを模している)が主舞台になるため、その世界における主要なキャラクターたちの名前を紹介する必要があるのだ。それが三分の一、残りの三分の二の登場人物は、二人の主人公がそれぞれ見聞することになる出来事に関係する。

高校を卒業したばかりの神流川杏那は、初めて出来た恋人と共にハッピーファンタジアにやってくるが、園内にある研究所棟の前で彼とはぐれてしまう。急いでエレベーターに乗って追いかけた杏那が到着階で見たものは、騎士のエドガーが倒れ込む場面だった。彼女もまた、何者かに襲われて意識を失ってしまう。

並行して綴られていくのは相川優の物語だ。研修医の彼は、年下の恋人・杏那とハッピーファンタジアにやってくるが、ふとしたことがきっかけで離ればなれになってしまう。研究所棟の上階で彼が見たものは、園の経営者の一人、椎野利雄の撲殺体だった。

同じ棟のエレベーターに乗った二人が別々の場所にたどり着き、共に襲撃事件に遭遇してしまう。どちらの事例でも、犯人は密室状態の部屋から忽然と姿を消していたのだ。この二つの謎を、杏那と優がそれぞれ独自に解決していくことになる。杏那のパートでは、魔王から世界を守るためにヒーロー、ハッピー・パピーを支援する旅というおまけつきだ。そして優のパートでは、〈夢の王国〉の幻想を守るための大人同士の駆け引きという夾雑物が謎解きに混ざってくる。この中盤の展開は私の好みではなかったのだが、魔方陣を巡る暗号の謎解きもあり、読者を退屈させないような配慮はなされている。やはり物語が締まってくるのは終盤で、二重の密室の構成原理説明は曲芸的であり、〈夢の王国〉設定を逆手に取ったひねりもあって良い。

(800字書評)

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