杉江の読書 天龍源一郎・嶋田まき代・嶋田紋奈『革命終焉』(辰巳出版)

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 2017年の元旦から寝込むことになり、家族に迷惑をかけてしまった。ほとんど眠って過ごしたのだが、眼が覚めている間に読むものがないのも淋しく、『革命終焉』を枕元に置いていた。2015年の旧刊であり、発売になってすぐ買って読んだ本だ。著者は天龍源一郎・嶋田まき代・嶋田紋奈、希代の名レスラーが家族と一緒になって著した、一風変わった半生記である。

以前に天龍源一郎の自伝を紹介したことがあるが、それと併読すると味わい深い。『完本・天龍源一郎』と違い、『革命終焉』は天龍が後のまき代夫人とお見合いをする場面から始まるからだ。当時の天龍は3度目のアメリカ遠征から戻り、ビル・ロビンソンと組んでインターナショナル・タッグ王座に挑戦した一戦が評価されて「全日本プロレス第三の男」として浮上しつつある時期だった。まったくプロレスに関心がなかったまき代は、ウエスタンブーツに巨大なバックルのベルトという、絵に描いたようなアメリカ帰りの格好をした天龍を見て「これはないな……」と思う。第一印象は最悪だった。

しかし男女の縁は不思議なもので二人はほどなく華燭の典を上げることになる。「天龍源一郎を一等賞のプロレスラーにしたい」と考えたまき代は、家庭人の振る舞いがまったくできない天龍をとことん自由にさせる。後ろを顧みることなく前だけを向いて突き進む天下の快男児は、こうして作られていったのだ。お見合いの場面から本書が始まることの意味がここにある。中学時代から父の団体WARの巡業に随行していた一人娘・紋奈もまた、天龍源一郎という現象の欠かせぬ要素である。嶋田家という城と天龍源一郎という名前を守りきれたのは、親子三人が鼎のように支え合ったからだった。誰が誰の従属物でもない、一つのチームとして生きる家族についての書である。

家族は文字通り「有り難い」もので、団結するのは当たり前のことではないのだということを改めて噛みしめながら再読した。

(800字書評)

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