チミの犠牲はムダにしない! その1『破壊から始めよう』橋本真也

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

 かつて、ライターのゲッツ板谷さんが主催していた「ゲッツ板谷マンション」というサイトがあった。ゲッツ板谷さんが知り合いのおもしろい人たちに執筆の場を与えるという目的で作られたもので、漫画家の沖田×華さんなども描いていた時期がある。ゲッツさんが病気をされたこともあって現在は閉鎖してしまっているのだが、私もそこに「杉江松恋のチミの犠牲はムダにしない!」というタイトルで連載を持たせてもらっていた。原稿の保存日時を見てみたら、なんと2005年である。干支一廻りも昔の原稿ということで文章も稚拙で、たいへん恥ずかしい。だがまあ、ここから縁があって生まれた連載などもあるので、恩返しの意味で原稿を公開する次第である。

 一応説明しておくとこの連載には、当時ミステリー書評以外の文章をあまり書いていなかった私がノンジャンルで本を取り上げることに挑戦する、という意味もあった。その際の判断基準は「笑える」ことである。書評もなるべく笑えるものを目指したつもりなのだが、力量が及ばなかったものも中にはある。気楽にかりんとう饅頭とか食べながら読んでください。

===============================

杉江松恋のチミの犠牲はムダにしない!

第1回『破壊から始めよう』橋本真也(ダイヤモンド社)

 2005年7月11日、プロレスラー橋本真也が永眠した。享年40。

月並みな言い方かもしれないが、実に惜しい人を亡くしたものである。

何が惜しいって? それは仲間のプロレスラーや、関係者たちから寄せられた追悼コメントを読んでいただければわかる。

――台風のときに増水した多摩川に出て行くんだよね。「危ないからやめろ」と言うと、「こういうときに魚がよく獲れるんだ」って、投網をわざわざ買ってきて投げていたよ。それが器用でね。……でも泥臭くて食えなかった(苦笑)(フリー・越中詩郎)

――なぜ、いつも龍の刺繍が入ったスーツを着ているのだろう。それも、ほとんどがマオカラーだ。(スポーツニッポン・丸元乙生記者)

――車に凝り、料理に凝り、空気銃に凝り、本当に凝り性。自分で豆腐一丁作るのにも、水から機械からお金をかけたり、ラーメン番組を見るや、鶏ガラからダシから全部買ってきて「真ちゃんラーメン」って言って、我々新弟子に食わせてくれた。その後は散らかしっぱなしで帰ったけど。(新日本プロレス・西村修)

――イタズラ好きで、ヒマさえあればスズメを食わされたり、『10数えるうちに逃げろ』って言われて、逃げ遅れて背中を空気銃で撃たれたり……。(新日本プロレス・天山広吉)

なんだこりゃ、である。決してその辺の空き地で遊んでいるガキ大将ではない。かつて新日本プロレスの頂点に君臨し、IWGP王座最長期防衛という偉業を成し遂げ、破壊王の異名をとった稀代の名レスラー(でもあだ名はブッチャー)への追悼コメントなのだ。この「映画版ジャイアン」(吉田豪)というか、「夏休み気分の小学生が、そのまま夏が終わるのも忘れて、大人になってしまったような」(東京スポーツ・高木圭介記者)男が橋本真也だった。岐阜県土岐市で過ごした少年時代、柔道の選手なのに大山倍達に憧れ、勝手に柔道着に「極真」と書いて先生に怒られたり、海外遠征中にアントニオ猪木のアメックス・ゴールドカードを預ったときには周りのレスラーに奢りまくって450万円も使ってしまい会社から叱られたり、それがトップレスラーの証だからとベンツの新車を2年ごとに買い換えたり、そうかと思えばススキノで火事に遭遇して逃げ遅れた老婆を助け名前も告げずに立ち去ってみたり(その後、近くのカニ料理屋で焼きガニを賞味)。おまけに好きな言葉が織田信長の愛した幸若舞の一節「人生五十年、化転のうちに比ぶれば、夢幻の如くなり」だったり。人生五十年どころか、わずか四十年で逝ってしまうなんて。ほんと、「おかしくって涙が出そう」(キャンディーズ)。切なすぎるぜ、破壊王。

まさに橋本真也こそ、マサ斎藤(アメリカで20人の警官をぶっ飛ばして逮捕され、刑務所入り。しかも冤罪)と並んでプロレスラー・オブ・プロレスラーと称されるにふさわしい男なのである。その破天荒なプロレス人生については、幻冬舎アウトロー文庫から出ている『烈闘生 傷だらけの履歴書』で読むことができる。長らく品切れだったが、幻冬舎が追悼記念で緊急増刷という粋なはからいをしてくれたから、全員本屋へダッシュ! そしてもう一冊、ダイヤモンド社から橋本真也インタビュー集『破壊から始めよう』も出ているので、こちらもファンなら必携の一冊なのである。

この本、インタビュー本としてはダメダメな出来だ。いいインタビューというのは、それまでに知られていない新しい話題を発掘していること、現場の臨場感がびしびし伝わっていること、全体が流れるような構成になっていること、というような条件を満たしている必要があるのだが、この本の場合、全体が56ものチャプターに分かれているので、ぶつ切りの構成だし、談話の再現がド下手でまるで別人のような喋りになっている。だが破壊王の言葉自体は抜群なので見捨てるにはちょっともったいない本なのである。よって、改悪された(と思われる)部分を復元し、橋本真也の人物像に迫ってみよう。

まずそのプロレス観。

「お客さんは頭の中で必殺パターンの試合を思い描くやろ? そんなパターンで勝てる試合なんて、たいした試合じゃないんや。つまらんぞ! 女のコもイヤやろ? セックスでパターンどおりの得意技で来られたら。変態でないといけないんや! SMなんていうのもあれは壊すことにつながるな。SMクラブの女のコに聞いたら、どこそこの商社の重役さんで、日頃人を押さえつけているようなオッサンたちが、『聖水を、飲ませてください』とお願いするそうや。きっと自分の殻を壊されたいんだろうな。レスラーにもSMクラブ通っている奴がおるらしい。いつも人を押さえつけているレスラーが、四つんばいになって、浣腸で『もうダメ!』と言ったらしいで」

誰なんだ、そのレスラーって! インタビューアがここでツッコミを入れなかったことがつくづく残念。しかも、このくらいでよしておけばいいのにプロレスSM談義は延々と続く。あ、何度も言うようですけど、談話は私の手で再構成されてます。

「俺もSMをやってみたいぞ! 何でかと言うとな、俺はいつも壊している、壊していると言ってるやろ。だからその破壊王を壊す女と会ってみたいんや。いい意味でSMの世界の中に入ってみたい。『お代官様、俺を置いていかないでくれー』みたいなことをその女に言ってみたいんだな」

なんで「お代官様」なのか。

ところで、いきなりセックスの喩えが出てきたので真面目な人は今頃ムッとしているだろうと思うが、この本で橋本は「小学3年生の時、登り棒をやっていて、急に気持ちよくなって」しまった話をはじめ、『烈闘生』には出てこない下方面のエピソードを多数しゃべっていて、そこが読みどころになっているので仕方ないといえば仕方ないのである。

だがもちろん、そういう話ばかりではない。「カレーがおいしかったとか、コメが違う、みそ汁の具が違うと言ってケンカ」していた子供の頃の思い出や(理由がくだらなすぎ)、あの入場時の衣装、ガウンに白鉢巻の原点が「小さいころ白組応援団長だった時の感覚が忘れられない」からだという衝撃の理由、「俺は、エレベーターに乗ると、へをこきたくなるんや!」というどうでもいい告白など、リアル・ガキ大将らしさが存分に発揮されている。エレベーターに乗るとへをこきたくなるなんて、三十過ぎた大人の言うことじゃないです。

ほろりときてしまったのは、死について語ったくだりだ。橋本には理想の死に方が2つあり、1つはもちろん尊敬する織田信長の「最高にあらがって火の中で死ぬロマン」。もう1つは、

「深呼吸をして、息を吐くような死に方やな。痛みも何もない。『ああ、昔のことがだんだん思い出されてきた。よかったなあ。みんなありがとう、ありがとう』って言うんや。そこにきれいなお姉ちゃんが迎えに来て、『さあ、行きましょう』『ハイ』と言いながら、手をつないで逝くのがいいんだぞ」

きれいなお姉ちゃんが迎えに来てというのが、いかにも色好みの破壊王でしみじみする。本当に、安らかにお眠りください。お疲れさまでした。

ところで、本書がインタビュー本としていかにダメかは前述したが、実はもっとダメな点がある。これまで伏せてきたがこの本、実はあの中谷彰宏との共著なのである(中谷氏について知りたい人は、ゲッツ板谷『出禁上等!』を読もう! 立ち読みじゃなくて買ってね)。つまりダメ・インタビューアーが中谷氏ということですね。だいたい『破壊から始めよう』というタイトルからして、橋本が自分のプロレス団体『ZERO ONE』旗揚げ戦で吐いた名台詞「破壊なくして創造なし」の完全なパクリだし、この本で中谷氏が創造性を発揮している部分はあまりない。破壊王の人間的魅力に寄りかかった本で、たまに自身に関した発言をしたかと思えば、「私は、射精した後、アルファ波が出ていることがわかる」だの「特にいい射精をした後は、超能力でスプーンが曲がる気がする」だの言い出すので泣けてしまう。勝手にスプーンでもなんでも曲げてくれ。

そういうわけで見逃すには大きすぎる瑕が存在する本ではあるが、破壊王という偉大な男を追悼するため、あえて推す次第である。とにかくインタビューアの存在を消して読むべし。なんなら中谷氏の発言のところ、全部黒線で消しちゃっていいから!

本書のお買い得度:

2005年8月2日現在、中谷氏の著作の売れ行きベスト3は、『知的な男はモテる ライフスタイルを磨く57の方法』(大和書房 定価1365円)、『これから、いつも一緒だよ 大切な人と別れる時に』(PHP)研究所 定価1050円)、『何もいいことがなかった日に読む本』(PHP文庫 定価480円)。この3冊を間違って買ってしまったと思って、3冊合計2850円をドブに捨てたつもりで読んでみて! きっと中谷氏単独の本より、「ライフスタイルは磨」けるし、橋本真也と「いつも一緒」の気分になれるし、絶対「いいこと」があるから。お願いします。

初出:「ゲッツ板谷マンション」2005年8月2日

スポンサーリンク

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存
スポンサーリンク