杉江松恋不善閑居 ユースホステル旅のこと~イッシー音頭購入顚末記 20170331

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鹿児島県ヒットチャートNO1!!(1981年当時)

私がユースホステルを使った旅行をしなくなったのは、思春期になって疑似家族的な雰囲気がうるさくなったからだ。スタンプで見る限りでは、一九八一年八月二十二日に高千穂ユースホステルに泊まった後しばらく利用していないので、もしかするとここで途絶えてしまったのかもしれない。というか一九八一年というと私は十三歳である。それまでがユース旅行のピークだったということか。

この一九八一年に九州南部を旅行した。私は母の実家が佐賀県にあり、鹿児島本線を使うと南下しやすかったのである。先のスタンプを見ると、鹿児島県指宿市にある指宿ユースホステルに五連泊もしている。なんでまた。いや、ここのユースホステルは特殊な雰囲気だったのだ。思い出した。

記憶に頼って書くが、指宿ユースは素泊まりだった。食事はついていたのかもしれないが、だいたいみんな外食で、近所にある安くてやたらと量の多い食堂を利用していた。たしか近くに断食道場があり、断食道場のそばに大盛り食堂、とおかしかった記憶がある。

そしてこのユースには最果てのような雰囲気があった。指宿枕崎線にあるユースはたしか、ここと山川駅、枕崎駅の三か所だけだったのではないか。その中では指宿駅近辺が観光地としてはもっともひらけており、薩摩半島を行く者の一大拠点になっていたのである。ユースの旅行者はだいたいここに泊まる。だから列車が泊まるたびに、誰かが指宿駅までユースの旗を自主的に担いでいって出迎えをしていた。私も何度か旅館の番頭さんよろしく駅まで行ったはずである。そういうユースだから当然のように延泊者も多く、一夏をここで過ごしている主のような者も珍しくなかった。

指宿ユースはおかしい、という噂を聞いた記憶がある。おかしい、というのは変わっているという意味で、異常にミーティングが盛り上がるのだった。スタッフの中に話術の巧みな人がいて、九州各地の名所について「あれは見掛け倒し」「九州三大食べたら損する名物の一つ」などとくさしながら紹介するのが毎晩の恒例になっていた。そのときに池田湖のイッシーの噂を聞いたのだった。正確に言えばイッシーそのものではなくて、「九州一まずいお土産はこれ」というイッシーまんじゅうのことだった。

もし今でも売っていたら申し訳ない。イッシーというのは当時池田湖にいるのではないかと言われていたUMAのことである。正体はオオウナギだという説が有力なのだが、当時は屈斜路湖のクッシーなど、日本各地の湖に首長竜がいる(といいな)とされていたころである。当然だがイッシーまんじゅうもその説に従い、首長竜型である。そして鹿児島県の名産である薩摩芋が原料として使われた。そこまでの発想は正しい。しかし想像してみていただきたいのだが、薩摩芋由来の饅頭は当然茶色になる。それが首長竜というか、凸凹した円錐状に成型されるのである。首長竜というよりは、人間が毎日排泄するアレのほうにそっくりなのではないだろうか。形が災いしてまったく売れない、と指宿ユースのスタッフは言う。それがどうしても見たくなり、私は池田湖まで一日かけてえっちらおっちら出かけていったのであった。イッシーまんじゅうも食べた。まあ、思ったとおりだった。

冒頭の写真は、その指宿ユースホステルに泊まる前、鹿児島の天文館で買った「イッシー音頭」である。このたびわけあって手放すことになったので、記念にジャケットをスキャンした。うろ覚えで申し訳ないが当時は新譜で、天文館のレコード屋で売上一位、というポップがついていたはずである(一九八一年八月)。A面が「イッシー音頭」、B面が「イッシーディスコ」で、私はディスコのほうが好きだ。薩摩半島の小学校ではこのイッシー音頭で盆踊りをする、という話があって実際に動画を見たこともあるが、今はどうなのだろうか。

盆踊りといえば、指宿ユースホステルに泊まっていたとき、隣の山川駅で行われていた納涼大会に行った。宿泊者の誰かが「あそこの素人のど自慢は有名で、高田みづえもそこで優勝したのがきっかけで芸能界に入ったんだよ」と行ったからである。よく考えてみると高田みづえはとっくに芸能界入りしているし、だからなんだという話なのだが、それはたいへんだ、ということになって一同で山川まで駆け付けた。当然だが高田みづえが里帰りして盆踊りをしているようなことはなかった。とぼとぼと帰る途中、駅で週刊プレイボーイを買った。「『まちぶせ』が大ヒット中の石川ひとみが大胆水着に!」と表紙に大きく書かれていて、気になって仕方なかったのである。

相変わらず大事なことは何も覚えていないのに、そういう記憶だけが残っている。

鹿児島の小学生必修というのは本当だったのだろうか。

ユースホステル旅のこと~ペアレントさん

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