杉江の読書 『ムーミン谷の彗星』(講談社青い鳥文庫)

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 世界の終わりが近づいてくる。ムーミントロールとスニフは長い旅の果てに異変の原因が彗星の接近にあることをつきとめる。そして、道中で出会ったスナフキンやスノークの兄妹、偏屈なヘムルといった面々と一緒にムーミン谷を目指すのである。彗星衝突の瞬間をパパやママと一緒に過ごし、そして生き延びるために。

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』はレギュラーメンバーの多くが顔を揃える、実質的なシリーズの第一作だ。彗星衝突という事件は前作『小さなトロールと大きな洪水』で描かれた天変地異と同じところ、すなわち時代の不安に起源を持つものだろう。本書の隠れた主役は、ムーミントロールと行動を共にするスニフだ。両親に愛され、スノークのおじょうさんというガールフレンドにまで出会うムーミントロールに比べ、利己的でいじましい性格のスニフには少しもいい場面がない。しかし、あわやという場面でムーミントロールはスニフの存在を思い出し、この癇癪持ちの友人のために行動を起こすのである。このようにムーミン物語の中では、異なる個性の持ち主同士が決裂の危機を越えて共存し合う場面がたびたび描かれる。大人物の風格を漂わせたスナフキンといじましい性格のスニフの、漫才のような会話も楽しい。

本書の原型作品は1946年に発表された。最初の改稿版が1956年に出版され、それにさらなる手が加えられたものが1968年に刊行された『ムーミン谷の彗星』である。忘れてはならないのはコミック版の存在で、ヤンソンは1947年にヘルシンキの日刊紙に「ムーミントロールと地球の終わり」を発表しており、これも彗星の衝突によって終わる物語である。ムーミン・シリーズは小説と平行してロンドンの「イヴニング・ニュース」紙に連載されたコミックによって世界的な知名度を得たが、そのエピソードの一つに1959年の「彗星がふってくる日」がある。本書は、そうした天変地異譚の完成形なのである。

(800字書評)

トーヴェ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『たのしいムーミン一家』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の夏まつり』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の仲間たち』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミンパパの思い出』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミンパパ海へ行く』(講談社青い鳥文庫)

トーヴェ・ヤンソン『ムーミン谷の十一月』(講談社青い鳥文庫)

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