電撃座通信 「愛九の研究室」20170701

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開場は13時30分だったのだけど、演者から「12時に入ります」と連絡をもらっていたので、それは間に合いませんけど、13時には行きます、とメールを返しておいた。

13時、電撃座に入ってみると、楽屋のほうから大きな声で本日の演目について相談している声が。靴を履き替え(電撃座はスリッパを履いて上がる方式なのです)、柱の陰から顔を出した途端に挨拶が飛んできた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

一人かと思いきや人影は二つ。一人は見覚えがある。本日の演者・三遊亭愛九(五代目円楽一門会。二ツ目)さんである。もう一人は、おやおや予想外の長身で、しかもどう見ても日本人じゃない。

「よろしくお願いします」

「あ、あなた十兵衛さんでしょう」

初対面の私に名前を呼ばれて、男性はちょっと戸惑った顔になった。

三遊亭好楽門下十番目の弟子としてスウェーデン人が入り、十兵衛の名前をもらったという噂を昨年聞いたとき、ついに、と思ったのである。というのも幾度かお会いしているスウェーデン大使館の文化担当官、アダム・ベイェ氏から、スウェーデン人のアマチュア落語家がいるという話を聞いていたからだ。アマチュアに飽き足らず、プロ入りしたんだ、と納得した。関東では初代快楽亭ブラック以来の欧米人落語家ということになる。

愛九さんはこの弟弟子を開口一番に上げず、まずは対談形式のトークで会を始めた。身長がまったく違う二人の姿は、それだけで笑いを誘う。

愛九「こいつは出落ちで笑いを取りますから。ずるいですよ。会の主催者の杉江さんだって『あ、あなたが十兵衛さんですか』って僕を見たときよりも明らかに喜んでましたから」

いやいや、愛九さん。それ、話を盛ってます。

この日の番組は以下の通り。

強情灸 愛九

桃太郎 十兵衛

狸札改 愛九

もう半分 愛九

トリネタは「本当はこれ、冬の噺なんですけど怪談ということで夏に」と断りながらの「もう半分」だった。愛九さんは「死ぬなら今」をよく掛けていたりして、私の中では「儲からない、あまりやり手のいない噺を好んでやる人」という印象がある。別にそれを伝えたわけではないのだが、期待に応えてこの不気味な噺を演じてくれた。棒手振りの爺さんが置き忘れた大金を横取りした夫婦が怪異に見舞われる、という因果譚である。怪異が起きてからの後半を愛九さんは長めに演じた。

他の二席のうち「強情灸」はオーソドックスな演出である。峯の灸というものを私は据えたことがないのだが、こちらのレポートを見た限りではやはり相当熱いもののようだ。小指の頭ほどの灸をツボに載せて次々に火を点けていくものだそうだが、一つでも熱いものをいっぺんに点火したら、それは地獄であろう。「横浜の峯の灸」と噺の中では言及されるが、その通りで横浜由来のものらしい。

もう一席を「狸札改」としたのは従来の「狸の札」にオリジナルの展開が加わった改作だからで、男が狸の化けた札をためつすがめつしているところで前後にそれを折り曲げて「お前、体が柔らかいんだな」というあたりがとぼけた感じで可笑しい。

初めて聴いた十兵衛さん「桃太郎」は子供が「昔話のあるところっていうのは、どこにあってもいい場所ということで、日本だってスウェーデンだっていいんだよ」と自分の出自に絡むくすぐりを入れて客席から受けをとっていた。前座らしく基本に忠実な「桃太郎」で、将来が楽しみという印象である。

そんなわけで仲入りをとらず、あっという間の一時間半だった。愛九さんは7月25日に迫った新作落語会のネタおろしがまだ出来ておらず、困った困ったと呟きながら帰っていかれた。そちらが一段落したら、今度はたぶん10月くらいに再登場を願う予定である。今回見逃した方は、そちらをお楽しみに。

開演準備に勤しむ愛九さんと十兵衛さん

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