杉江松恋不善閑居 池袋コミュニティカレッジ「ミステリーの書き方」について・その3

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関係ないけどインド洋と私。

池袋コミュニティカレッジで担当している「ミステリーの書き方」講座の紹介、三回目でおしまいである。最初に書いたとおり、講座と言いつつもこれは小説を書く人を手助けするための「工房」であり、A・B二つあるコースのうちAは「創作実習」という名がついているが、実際には「書きたい人の背中を押す」ためにやっている、というところまで前回書いた

今回はBの「応用演習」コースについて。Aが「背中を押す」ものだとすれば、こちらは「手を引く」ためにやっている。つまり「ミステリーを書きたいけど、今はその準備がない」という人のためのものだ。これには、(0)書きたいつもりがあっても具体的に何から始めたらいいかわからないという場合と、(2)以前まではちゃんと書けていたのに最近はなんらかの理由でうまくいかないという場合の二通りが考えられると思う。

自分が(0)に該当すると思っておられる方は、もしかするとBではなくてAコースに来ていただいたほうがいいのかもしれない。経験値がゼロでも、実際にやり始めてみたら問題なくミステリーのプロットに則った書き方ができる、という人はいるものである。前回も書いたように「〇〇だと思ったら××だった」というような形式でお話を考えてみて、思いつくようだったらまずその方向でご自分で話を書けないか試してみられることをお薦めしたい。

考えてみたのだけど「××だった」の部分が思いつかないという場合もあるだろうが、それは(0-0)そもそもミステリー的な書き方が向いていないか、(0-1)試行回数不足のいずれかである。

(0-0)

ミステリー的な書き方が向いていないというのと、小説を書くのに向いていないというのは同じではない。ミステリーではない、別のやり方を試したほうがいいというだけの話である。いわゆる純文学を筆頭にさまざまなジャンルがあり、小説の書き方は単一ではない。もしご相談に乗った方がよければ見学でお越しいただければアドバイスぐらいはできるが、私は「ミステリーの書き方を使って小説を書く場合、進捗管理がそれなりにできる」だけの人間なので、どれほどのお手伝いができるかは請け負えない。ただ、どんなジャンルであっても小説であればそれなりに読んだことがあるので、いくつかの提案をすることは可能だろうと思う。

(0-1)

試行回数不足という言い方は冷たく聞こえるかもしれないが、質ではなく量、つまり回数をたくさんこなすことで解決する問題はたくさんあるということである。ただ、ここでも改善の余地はある。試行回数を増やすといっても、同じことを何度繰り返しても取れ高はそれほど上がらないはずである。新しい視点を入れたり、筋肉トレーニングのように鍛える場所を少しずつ変えたりすることで、それまでは得られなかった効果が生まれることはある。そうした、バリエーションを増やすためのお手伝いはこの場合も可能である。

また、「××だった」が思いつかないけど、とにかく書ける、という場合もありうる。話の落ちは思いつかなくても、設定がしっかりできていれば、それを使って登場人物を動かし始めることはできるだろう。それをやった場合「山なし、落ちなし、意味なし」の平面的なスケッチが生まれてしまうことは十分ありうる。でもそういった「やおい」作品でも、何も生まれないよりはましなのである。スケッチができたらそれを元に何かを変えて、ミステリー的なプロットの話を作る、という段階の踏み方も考えられる。

以上のように(0-0)(0-1)いずれの場合でも、工房としてお手伝い可能かもしれないし、できないかもしれないということになる。これに関しては応見学ですとしか言いようがない。

さて、Bコース受講の主対象が(2)だということがおわかりいただけたのではないかと思う。つまり「ミステリーの書き方を使って書きたい意志はあるし」「プロットは思いつくが」「今はなんらかの理由でそれができない」という場合である。この「なんらかの理由」には多くのことが含まれる。「忙しくてじっくり考えている時間がない」というのがいちばん多いだろう。「理由はわからないけど、なぜか書けなくなった」というスランプの人もいるはずだ。どんなことでも、一度止まってしまうと再起動が難しくなるものである。「忙しくて時間がない」人は、ではどんなことならば忙しくてもできるのか、を考える必要がある。「なんだかよくわからないけど書けない」人は「書けることを書いているうちに、本来書きたかったことが書けるようになるのを待つ」のが有効かもしれない。そういったぐあいに「手を動かす」のがBコースの目的だ。だから「応用演習」なのである。ケースバイケースでいろいろなことをやってきたから。

現在Bコースでやっているのは「失敗に終わった過去作」の手直しである。いったん書いてみて中断してしまったもの、もしくは最後まで行ったが気に食わないものを持ってきていただき、どこが書き手にとって不満だったのかを話し合う。そして、改稿のアイデアが浮かんだら、その線に沿って直してもらうのである。おわかりのとおりこれは(1-1)~(1-3)の過程に対応している。

つまり、

(2-1)

「過去作修正の希望を聞いて、手を入れたらどんな完成形が考えられるか意見を言う」

(2-2)

「新しい筋立てを教えてもらい、過不足について助言する」

(2-3)

「できあがったものを元に、直しの提案をする」

ということである。それぞれの詳細は前回記事の(1-1)~(1-3)をご参照いただきたい。

以上が「ミステリーの書き方」という講座を通じて私ができるお手伝いのあらましである。こういう形で「背中を押す」か「手を引く」のどちらかでご協力できると思う。ただ、ご覧いただければわかるように、多少の専門知識は提供できるものの、やろうと思えば書き手が一人で努力してもなんとかなるはずである(ここに整理したような考え方は、一人で試行錯誤される際にも使えると思う)。なんだ、こんなことしか手伝えないなら必要ない。そう思われる方はまったく皮肉ではなく、ご自身で努力されるべきである。もし、使えるものはなんでも試してみたいという希望がおありならば、一度お試しを。もちろん見学はいつでも受け付けているので、ただ覗いてみたい、というご希望も事務局は受け付けるはずである。

お会いするかどうかわからないけど、どうぞご健筆を。がんばってください。

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