街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年2月・西日暮里「古書信天翁」

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西日暮里駅から線路沿いの坂をだらだら上り、途中で富士見坂をやり過ごして進むと丘の頂上に出る。そこから谷中銀座に向けてくだっていく道があり、途中から階段になっている。通称夕焼けだんだん、谷根千を代表する名所の一つだ。

落語好きにはこの界隈は、五代目古今亭志ん生と十代目金原亭馬生の旧宅があった場所としても知られている。詳細は省くが、谷中銀座の中途の道を入ったところに美濃部家はあった。故・古今亭円菊は内弟子として、晩年の志ん生の身の回りの世話をしていた。円菊が志ん生をおんぶして連れて行った世界湯という銭湯も今はもうない(『落語家円菊 背中の志ん生』)。

その夕焼けだんだんである。階段を下る手前、西日暮里の駅から来ると道の左側の洒落た建物の二階に、古書信天翁はある。ここまでやって来たときには、竜ヶ崎から帰りゆえもう日は暮れていた。建物の一階は飲食店で、油條や胡麻団子などの売り台が前にせり出している。その隣に、信天翁の均一棚も置かれているのである。暗くなっていたが、携帯電話の懐中電灯機能を使って本の背を確認する。

古書信天翁が閉店するという情報を知ったのは、迂闊にも竜ヶ崎に向かう列車の中だった。当初は2月1日(つまりこの日)で閉める予定だったが、在庫を売りつくす都合があるのか、若干延びているのだという。公式ツイッターなどを見てもはっきりとした閉店日は決まっていないようだが、早く行くに越したことはないと思う。全品五割引きの閉店セール中である。

無精をしてしまったため、これまで信天翁には数えるほどしか来たことがなかった。階段を上がり、店に入ると、中は常連らしいお客さんが熱心に棚を見ている。それに混じってちょっとだけお邪魔させてもらった。

店内は柄杓のような形をしていて、ガラス扉を開けて入ると柄杓の柄にあたる通路である。その左側がレジと若干の新刊書籍、児童文学がある棚で、右の手前が海外文学、奥に古い漫画の棚がある。突き当りが文庫棚で、右側に売り場の主部分がある。方形の部屋の右側壁は芸能や映画などの書籍、左側は美術書などが置かれている。中央には背の低い棚があり、文学や社会科学関連書が。私は芸能の棚でいくつか発見があった。講談関係で、室井琴嶺『修羅場は異なもの味なもの』(工作舎)、2013年の刊行だが私は持っていないのでありがたく頂戴する。浪曲関係では、『浪曲事典』(日本情報センター)と長田衛『浪曲定席 木馬亭よ、永遠なれ。 芸豪列伝+浪曲日記』(創英社/三省堂書店)。『浪曲事典』は基本図書として手元に持っておきたかったし、長田書は見たことがなかった本なのでありがたい。いや、講談・浪曲関係の本は何であれ、ありがたいのだ。

半額だと申し訳ないような額になってしまった。竜ヶ崎からの本に加えて三冊、かなり重くなってしまった荷物を抱えて外に出た。二階から均一棚を見下ろし、階段の向こうの谷中銀座を眺める。おそらくこの店にくるのは今日が最後になるだろう。ここからの階段下の眺めも、見納めとなるはずだ。しかし夜の色に染まった街路は、そんな小さな感傷とは無関係に行き交う人の活気に満ちている。

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