幽の書評vol.19 飯沢耕太郎『ザンジバル・ゴースト・ストーリーズ』

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ザンジバル・ゴースト・ストーリーズ

これはザンジバル版『遠野物語』なのか

ザンジバルを訪れていた旅行者が、夜の公園の一角で黒いヴェールの女と出くわした。こんな夜中に出歩く女ならば気軽に誘えるだろう、という不埒な思惑で男は女に声をかけた。案の定すぐに承諾したが、いささか身繕いに時間を要するという。再び姿を現したとき、その姿はとてつもない変化を遂げていた――。

飯沢耕太郎『ザンジバル・ゴースト・ストーリー』はアフリカ大陸の東岸に浮かぶ隆起珊瑚礁の島を舞台とする怪異譚集である。ザンジバル諸島は、かつて貿易港として栄えた歴史からヨーロッパ、イスラム、アフリカの各要素が交じり合った独自の文化を保っている。ページをひもとく読者は、そこに自分の全く知らない世界が広がっていることに驚嘆するだろう。それは禁忌に満ちたものである。冒頭に紹介した不幸な女たらしのように、迂闊に夜の街を出歩けば必ずや後悔することになる。作中に描かれた怪異の数々に未知の土地の文化が色濃く反映されているように感じて、私は空想を逞しくした。

本書に収録されている物語は、アミル・A・サイードという人物が収集したことになっている。飯沢とサイードの関係は、柳田國男と佐々木喜善のそれになぞらえることができるだろう。しかし、柳田と佐々木の邂逅は歴史的事実だが、サイードという奇譚収集家の実在を確かめることは読者にはできないのである。そのあやふやさをも含めて賞玩すべき書なのだ。どこまでもゴーストのように実体がなく、物語におびやかされた心だけが残る。

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