街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年3月静岡行・その4 狐ヶ崎「ふしぎな古本屋はてなや」

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おそるべき実力、ふしぎな古本屋はてなや

(承前)

さて、静岡行の二日目である。

静岡駅前にもまだ行けていないところはあるのだが、それよりも優先度が高いのは、機会を作らないと絶対に足を延ばさないような、ぽつんと一軒ある店である。そういうところが逡巡しているうちに閉店してしまった、という経験を今まで何度してきたことか。静岡市内で言えば清水区のエンゼル書店がそうで、東海道歩きの途中で見つけたものの、時間が早くてまだ開いておらず、見送ったら次に清水に来る機会を作る前に店舗営業を辞めてしまわれた。また、草薙のにし古書倶楽部も私にとっては歯がゆい店で、最初に前を通ったときは営業しているのを確かめられたものの、時間と体力がなくて素通りしてしまった。以降何度前を通っても営業している形跡すら確かめられないのである。おそらく、古物商としてはまだ存続しているが、利の少ない古本の扱いは辞めてしまい、書画や骨董のほうに完全移行してしまったのではあるまいか。

そんなわけで、静岡行の二日目は後悔の元を潰しに行くのである。目指すのは静岡市内でも清水区にあたる、静岡鉄道狐ヶ崎駅だ。静岡駅からはJR線で草薙駅まで行き、そこで乗り換えて数駅のところにある。そうか。だったら昨日、ピッポ古書クラブに行くついでにそっちに行ったらよかったんじゃないか、と自分を責めても後の祭りである。

ちゃっきり節、というのをご存じだろうか。

ちゃっきり娘で有名、と言っても昭和世代にしか通用しなくなってしまった。私はてっきり古くからある民謡だと思っていたのだが、実は意外と新しく、1927年に北原白秋・詞、町田嘉章・曲で作られた。狐ヶ崎遊園地という施設がその年に開園した際、客寄せのためのイメージソングとして制定されたものなのだ。

前回東海道歩きで狐ヶ崎を歩いた際に、この地にかつて遊園地があったということは案内板などを見て知っていた。そのときはただ流して通り過ぎてしまったのだが、まさかそこに古本屋があったとは。

■ぽつんとあった古本屋で衝撃の体験

駅を出て、陸橋を渡って歩いていく。この陸橋は、用水路が線路の上に渡されており、その上に蓋をして歩道が載せてあるという変わったものだ。見るとたしかに陸橋の先に用水路の流れがある。そこをとことこと歩いていく。鄙びた道であり、どう考えても古本屋がその先にあるようには見えないのだが、やがて大きな道路に行き当たる。それを左折したところにあるのが、ふしぎな古本屋はてなやである。

サブカルチャー全般に強く、積極的に買い取りをやっている店、というぐらいしか予備知識はなかった。ゆえに店に入ってびっくりした。

東京人向けに一口で言えば、中野ブロードウェイのビル一画だけが『漂流教室』よろしくこの地に飛来したような。

すさまじいマニア度だ。

店内には三本の棚で二本の中央通路ができている。右は主にコミックが並んでいる通路で、貸本漫画や古い少年誌のバックナンバー、「ガロ」系やひばり書房、曙出版といったところの古い単行本が大量に並んでいる。左の通路には雑誌バックナンバー。たとえばプロレス雑誌ならば「月刊ゴング」だけでもかなりの量がある。それに加えてタレント本などの芸能関係も。

左右の壁際通路は、左が単行本のエリアである。入口左が文庫本、そこから単行本のコーナーがあり、角の地帯には性文化関係のものが多く集められている。角を曲がるとジャンルごとにサブカルチャー系の本が並んでいるが、ここのレベルの高さも特筆ものである。たとえばプロレス本だと、田鶴浜弘先生の本が複数タイトルあるのが当たり前、という見当である。総じて小説系よりもノンフィクションが強いのだが、ミステリーやSF、幻想小説なども無いわけではなく、棚の高いところに置かれている。その棚の奥に行くと写真集や成人雑誌系の地帯になる。左の壁棚に向き合っているのが、オカルトと児童書系で始まるエリアである。児童書系は立風書房のジャガーバックスが複数ある、と言えばだいたい察していただけるだろう(ただし、それほど希少度は高いものではない)。怪獣関係やジュブナイルも多く、ここもちょっと気を許すと罠にはまりそうな気配がある。

一気に反対側に行って、右の壁際へ。やはりこちらの手前も文庫コーナーで始まるのだが、壁際は本ではなく、映画ポスターが吊るされたエリアになる。その奥はソフビやフィギュアのコーナーで、陳列ケースが並んでいるさまは圧巻である。ブルマアク社のものなどは当たり前にある。その棚と向き合っているのが、コミックやアニメ関係の本。最初、右中央通路と同じかと思ったのだが、そうではなかった。ここは100円均一棚なのである。一面全部100円だ。気前が良すぎないか。他の古書店だったら普通に値付けして売っていそうな単行本が、ずらずらと並べられている。

ここでついに補足されてしまった。通り過ぎることができなかったのは、みのり書房「OUT」増刊の「ランデブー」である。板橋しゅうほうの「ペイルコーン」と聖悠紀「超人ロック新世界戦隊」が連載していたやつ。持っていない号が3冊あって、これはやむを得ない。均一棚ではないのだが、山松ゆうきちの『エラヅヨの殺し屋』も全2巻があったので、これも買ってしまう。エラヅヨとは「エラいツヨい」の意味で、元は凄腕の殺し屋だった主人公が麻雀打ちになり、さまざまな相手と卓を囲むことになる、という設定だ。「ジャイアント糞(ばば)」が収録されているのがなんといっても大事で、馬場が猪木と麻雀で対決するのである。肖像権的に絶対再販しなそうなので、これは見かけたら絶対買おうと思っていた。あった。しかも安い。もう一冊は長谷邦夫の『マヌケ式』である。『バカ式』『アホ式』に続く3冊目。これまた見かけたらもう仕方ない一冊だろう。しかも安い。

実はここに来る前にお金を下ろし忘れ、わずかな額しか現金を持っていなかった。「絶対に要る本だけしか買わないぞ」と心に言い聞かせながら棚を見ていたのだが、以上の本を買ってしまったのであった。やむをえない。これでもだいぶ絞ったのだ。資料的価値は非常に高そうな本が一冊あったのだが、自分の専門ではないし、これに手を出したら無間地獄に落ちることがわかっているので、泣く泣く見送った。苦渋の決断である。

店を出ると、鞄が妙に重くなっていた。間違いなく今回の静岡行きで最大の収穫である。予算の都合上落としてきたものもあり、絶対に再訪しなければならない店だと心に強く誓った。そのときまであの本とかあの本とか、売れないでくれるのを祈るのみだ。

(つづく)

これでもかなり絞ったのです。

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