街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年3月静岡行・その5 沼津「平松書店」

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沼津でボーズ

(承前)

根気がない。集中力が足りない。細かいことにこだわらない。

そんな性格だと自分では思っているのだが、こと趣味に関しては事情が異なる。

手に入らない本はなんとかして読みたくなるし、行けないと言われている場所には行きたくなるものである。

昨年からずっと宿題として残っていたのが、沼津の平松書店であった。

これまで二回挑戦して、共に振られている。その前にタクシーで前を通過してしまうという痛恨事があり、なんとしても次こそは店の中に入りたいと渇望していた。

ふしぎな古本屋はてなやで大収穫があり、一日の釣果としてはもう申し分ない。狐ヶ崎駅から静岡鉄道で草薙に戻り、JR東海道線に乗り替えて一路東を目指した。草薙駅から一本で終点の沼津である。

今年二回目の沼津入り。前回前々回は駅前から仲通りに入って平松書店を目指したのだが、共に振られているので少々験を担ぎ、別の道を行ってみることにした。駅前のバス通りを真っ直ぐ北上、最初の信号を過ぎて次の角を右折すれば同じ場所にたどり着く。

そんな些細なことが影響したはずはないが、遠くから見ても平松書店が営業しているのはわかった。

ああ、やっている。

三度目の正直の平松書店

おそらくは大学時代から三十数年ぶりの平松書店探訪である。店頭の均一棚も、ガラス戸内に積み上げられた美少女コミック誌も(意外と多くて『LО』なんかもある)、特別な宝物のように見える。奥には店主のおやじさんの姿が。一時期体調を崩されていたとの噂も仄聞しており、他人事ながら心配していた。お元気そうで何よりである。

店に入ると、その内観に圧倒される。中央に書棚があり、左右二列の通路を通る古本屋の基本形なのだが、展示会用なのか、積み上がった本の束が私の身長よりも高くなっており、壁際の棚は二メートルから上ぐらいしか見えない。本の山はビニール紐で縛られているが、水平ではないので、不用意に何か抜くと崩してしまいそうである。

その本の山の間を埋めるように単行本が積んである。中央列の前にも同じような積み上げがある。したがって通路は非常に狭いのである。リュックサックを背負いながら歩いていたので店主から、

「そんな大きな荷物をしょって歩いて、崩されたらかなわないですわ」

と声を掛けられた。

「あ、では、置かせていただいていいですか」

「はい、下ろしてゆっくりご覧になったほうがいいでしょう」

お言葉に甘え、帳場前の成人誌が山となっている地帯の隅に置かせてもらう。これで身軽に動き回れるようになった。

中央列は手前右側が時代小説文庫から始まり、奥に行くにしたがって現代小説、純文学単行本、歴史・社会科学関連と変化していく。ここで驚くような発見があったのだが、値段が高いこともあって見送った。あれは誰が買うのだろうか。値付けは相場より若干高めだと思う。自分でも手の届く本を買おう、と最初から緊縮財政を心掛ける。

ピエール瀧逮捕について報じる店主の前を通って左側通路へ。こちらは右通路に比べるとまだ余裕があり、壁際の棚は160センチから上ぐらいなら見ることができる。歴史関係が主である。奥に静岡県の郷土史本が集中しており、半可通な知識ではどれが値頃な本なのかさっぱりわからない。火傷の元なので探究本がない状態の今回は諦める。歴史関係はよほど入り用なものがあったら、ということにしよう。

中央棚左側は実用書が多く含まれる構成になっており、前に積み上がった本も新書が主体である。その中にハヤカワ・ミステリなどが混じっている。ここで手にしたのが朋文堂の〈旅窓新書〉から火野葦平『河童漫筆』である。洋行の思い出なども入っている雑文集なのだが、河童妖怪についてのものが多く、カバーを初代河童漫画家の清水崑が描いている。旅窓新書はマッカレー『地下鉄サム』を持っており、これもご縁であろうと購入を決めた。他にもう一冊、初代林家木久蔵の『昭和下町人情ばなし』があり、これも手にする。

ピエール瀧逮捕について報じるワイドショーを難しい顔をして眺める店主に支払いをすると、「ありがとうございます。また来てくださいね」と柔らかい声で言われた。ええ、また来ますとも。新しい本も随時入っているようであり、店の時間が止まっている感はなかった。おそらくまた一年以内に来るだろうと思う。忘れないようにしなければ、定休日は木曜。定休日は木曜だから。

もう満足である。釣り用語で言うところのボウズにならないで済んだ記念に駅前の理髪店で頭を坊主にした。JR東海道線にごとごと揺られて帰途に就いた。

この日はちょっとおまけがあり、帰り際に地元の図書館に寄ったのである。取り寄せした資料が届いているとの連絡があったためだが、用を済ませて帰ろうとしたら、出口の廃棄資料の棚で意外な発見をしてしまった。佐藤弘人『はだか人生』と『はだか道中』の二冊があったのである。

佐藤弘人は日本に経済地理学を広めた学者で、その功績をもって正三位・勲一等瑞宝章を授けられているのだが、随筆家としても知られ、特に下ネタのものを能くした。著書に『上り下り東海道』があり、これは猥談系の逸話を紹介するものだと聞いていたので欲しかったのだが、その人の他の随筆集である。『はだか道中』には帯がついており「はだか随筆/いろ艶筆/はだか人生/上り下り東海道/「はだか道中」はこれに続く第五番目の随筆集です。(中略)この本を完成されて間も無く、脳溢血のため博士は急逝されました」との惹文が。

帯がついているところを見ると、これは廃棄資料ではないのだろう。図書館に持ち込まれた寄付本のうち、閲覧には向かないと見做されたものが廃棄に回される。そういうたぐいのものだろうと判断した。私以上に佐藤弘人を欲している人が近所にいたら申し訳ないのだが、二冊とも頂戴する。これにて静岡行、ひとまずは終了である。

(つづく)

古本屋で本を買った後、図書館でも拾ってしまうという。

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