街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年3月・静岡行その7・南伊東「岩本書店」

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伊豆半島に来たら岩本書店!

(承前)

二日続けてふしぎな古本屋はてなやに行ったわけなのだが、その前にどこに行ったかといえば、南伊東の岩本書店なのだった。伊豆半島は古本屋不毛の地だと勝手に思い込んでいた。たいへん申し訳ないです。岩本書店は地元で長く営業していて、伊豆及び静岡の郷土史関係に強いという。

朝一で自宅を出てまたもや横浜駅に。ここから熱海行に乗る動きは、もはやルーティンと化してきた。横浜駅が私鉄からJRに乗り換える新宿駅のような存在に感じられるのである。

最近の熱海駅はどんな時間に行っても人が多い。しかも外国から見えた方の比率が高く、いつも誰かが伊豆急行線への行き方を駅員に訪ねている。伊豆半島への観光誘致がうまくいっているようで何よりだ。

青春18きっぷは伊東までなのだが、岩本書店はそこから伊豆急行線で一駅の南伊東にある。200円を払って駅の外に出た。自宅をほぼ始発の時間に出てきたので、まだ9時前である。だが、日本の古本屋サイトには午前9時開店と書いてある。このあとはてなやのある狐ヶ崎まで行くつもりだったので、早いのは歓迎である。駅を出て左へ。すぐ右に曲がると一本先の道にぶつかるので、それに沿って左へ。セブンイレブンのある交差点を越え、次の角で右である。南伊東駅からは5分も歩けば着く。こんなのどかな場所に古本屋があるのか、と一瞬心配になるが、あるのである。道の左側に岩本書店の建物が見えてきた。

まだ扉は開いていない。9時少し前なのだが、開店の気配すらない。不審に感じてドア付近を観察してみたら、午前9時ではなくて10時開店と書いてあった。しまった、やってしまったか。だが、どうしても10時まで待てないわけではない。なんならこのへんで時間でも潰していようか、と考えていると、鍵の開く音がしてご主人が出ていらした。手早く開店の作業をされる。思い切って、声をかけると「どうぞ」と微笑まれた。ありがたい。

■前評判通りの得意分野があるお店

店舗は横に長い形をしている。入口は左下隅にあり、扉の右側には100円均一棚がある。こちら、棚晒しにせず入れ替えているのか、背も古びずにいい状態である。何もなかったらここから1冊買おうと心に決める。時代小説も多いが、海外ミステリーもけっこうある。

中に入ると、棚がすぐ目に入る。横に長い目の字というべきか、目の字の下の横棒は新刊書店にあるような背の低い雑誌棚で、そこに写真集や成人向け雑誌が置かれている。このへんだと買える場所もないはずだから、重宝されるだろう。上の横棒は天井までの背の高い棚で、それが視界を遮る形で置かれている。その中央棚では歴史関係のものがまず目につく。噂通り郷土史関係のものが充実しているようだ。いちばん右がそのエリアで、中央になぜか成人向けの本がいくらかあり、それを越えると全集や社会学系、芸能関係の本が目に付くようになる。ここで持っていなかった八代目雷門助六『助六ばやし』(せいじ社芸能選書)があったのでありがたくいただく。あやつり踊りの助六は、六代目の実子だが、父が旅先で頓死した後に跡を継ぐまで時間が空いた。落語家ではなく他の道に一時期進んでいたからなのだが、間に関係のない人が七代目を継いだ。そのためにとやかく言われて八代目は傷ついたようである。そういった事情が書かれていてなかなかおもしろい。考えてみれば六代目が亡くなったのも静岡だし、この一門は東海地方に縁が深いのだ。岩本書店にあるべくしてあった本なのだと後で納得した。

中央棚の裏と、その対面の奥の壁棚には文庫が充実している。ちくま文庫などの比較的硬い本が強く、やはり人文・歴史関係の品ぞろえがいい。レジは入口から見て右側にある。その奥があるようで、どうも母屋につながっているのではないか。レジ近くには少々珍し目の本が陳列されたガラスケースがあるのと、地方出版の新刊が置かれているのが印象に残った。最初はご主人だけだったが、あとから女性も出てこられた。ご夫婦なのだろうと思うが、お二人で伊豆の古本文化を盛り上げてもらいたいものである。伊東は近いのでまた来ます、と心の中で言って、店を後にした。

駅へ戻って熱海行きを待つ。平日の午前中だというのに、中学生ぐらいの少年少女がホームに上がってきた。

「先生が飲み物は買って飲んでいいって言ってた」

「じゃあ、俺、マック食っちゃおう」

「マックは飲み物じゃないだろ」

などと、がやがやがやがや。駅の階段下からは女子のコーラスが聴こえてくる。合唱部なのだろうか。遠足という雰囲気でもないので、おそらく受験に備えての高校見学とか、そういう形の学校行事なのだろうと思う。目指す列車が到着し、がやがやの中学生たちと一緒に乗り込んだ。

(つづく)

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