街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年8月・南伊東「ひゃくめんそう」「岩本書店」

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一見、古本などありそうにない外観ではあるが

8月某日

この週末は伊豆熱川で全日本大学ミステリ連合の合宿であった。毎回二日目にはゲストをお招きしての講演会があるのだが、今回は大ベテランの辻真先氏である。講演場所もホテルとは別に伊東市の宇佐美コミュニティセンターをお借りして賑々しく執り行ったのであった。辻さんがゲストに来られたのは二回目で、前回はなんと私が大学に入る前、1985年か、86年のことである。それだけ長い期間を業界の最先端で活動してこられたことには畏怖の念を感じる。

ミステリー漬けの濃い時間を過ごしたあと、日曜日の朝に一行は解散した。今回の参加者はすべて関東勢なので、伊豆熱川からは熱海まで北上して東へ向かうことになる。

が。

ただ一人その流れに背を向けた者がいた。

「あ、私、静岡に泊まってから帰ることにしたわ」

「はあ。もう静岡に住民票を移したほうがいいんじゃないですかね」

私である。

せっかく青春18きっぷの期間なのに、静岡県の東端まで来て引き返すのはもったいない。古本屋が多く集まる静岡駅付近に宿を取り、周辺の店を再訪してから帰ることにしたのであった。

ためしに楽天トラベルで検索してみたところ、当日予約のみ1500円税別という信じられない安値の宿があった。これは招かれているとしか思えないではないか。

伊豆急行線に乗車し、伊東駅の手前、南伊東駅で何人かの有志と下車した。ここに、春にもやって来た岩本書店があるからだ。

すでに通い慣れた感のある道をぞろぞろと連れ立っていく。駅からは、どう歩いても五分程度の距離である。

駅から出て左に進み、最初の角で右折すると、伊豆急行線と平行する県道に出る。その交差点にセブンイレブンがあるので、ATMに行く者があった。帰りを待つ間、ぼんやりと道を眺めていた小野家由佳氏(翻訳ミステリー大賞シンジケートにて『乱読クライム・ノヴェル』連載中)が交差点に立つリサイクルショップを指して、あそこ、本は置いてないんですかね、と呟いた。

私も気になったので前回の訪問時に店内を覗いたのだが、家具のみしか無かったのである。

戻って来た者といっしょにまた歩いていく。セブンイレブンの先の角を右折したところに、岩本書店があるはずだ。いや、あったのだが。

お休みであった。

開店時刻より前というわけではなく、日曜定休と貼り紙にも書いてある。

過ちを繰り返さないために。いいですか、岩本書店は日曜定休です。日曜定休なのです。

ああ、と一同から溜息が漏れた。

だが、仕方ない。休みは休みなのだ。

■リサイクルショップを見たらとりあえず覗け、の法則

再びセブンイレブンに行くという者がいて戻りを待つ間、先ほどのリサイクルショップに目をやって、あることに気づいた。

お店は無人でガラス戸にも鍵がかかっている。そして窓には「ご用の方は近くのひゃくめんそうまで」という貼り紙がしてあるのだ。

あれ、もしかするとここが本体じゃなくて人がいるお店が別にあるのか。

見れば、窓にも矢印が書いてあって、客を誘導しているように見える。その示す方向を見てみると、路地の奥にはたしかにお店があるではないか。店頭に置かれた戸棚や椅子が営業中であることを示している。

リサイクルショップは古本屋と同じ古物商で、家具などの引き取りの際に出てきた古本を店内で売っていることも多い。西武池袋線近くの新宿広場などがいい例である。

これはもしかすると行けるのではないか。

駄目元で近づいてみた。店名は前述の通り、ひゃくめんそうというらしい。店の外には家具、入ってすぐのところにはハンガーラックがあって古着がたくさんある。奥にはオーディオ・ビデオ機器などを置いた棚が。正面奥が帳場だが、横にCD棚が見えた。近づいてみると、浪曲のカセットが目に入った。初代京山幸枝若のものだ。これは嬉しい。本ではないが、私にとっては収獲である。

早速購入し、急いで外に出た。陳列棚の隅に本の背らしいものが見えたからだ。発見の歓びを独り占めしては申し訳ない。ここはミス連の同志と分け合うべきであろう。

セブンイレブンにいた諸君を呼んで、もう一度店に入る。奥へ進んでいって、思わず口から嘆声が漏れた。

先ほど目に入ったのは店中央の島で、そこには時代小説や日本小説の文庫などが並べられているだけなのだが、帳場の左奥にちょっと引っ込んだ場所がある。左の壁ぎわに試着室が設置されており、その対面も棚になっている。手前はアダルト関係のDVD、しかし奥には文庫が天井から床まで詰め込まれた棚が二本ある。驚いたことに、それらはすべて海外ミステリーなのである。しかもかなり渋い選書である。創元推理文庫の旧い版や、今ではあまり見なくなったアンソロジーなどが置いてあり、作品も良いものばかりだ。

私はキャロライン・グレアムのバーナビー主任警部シリーズ、『蘭の告発』を発見したのでいただくことにする。他のミス連勢も棚に群がり、白蟻が浸食するが如く棚の本を手にしていく。

伊豆の翻訳ミステリーファンがまとめて蔵書を売ったか、もしくは店主が好きで読んだものを放出したのか。そのへんはわからないが、これだけ粒選りの本が揃ったリサイクルショップというのも珍しいのではないか。まったくノーマークであった。南伊東にひゃくめんそうあり、と肝に銘じるべきであろう。

各自戦果を手にし、駅までの道を引き返す。新店発見の歓びを共有すべく、私は若林踏氏に話しかけた。

「こうやって、知らない店がまた出てくるんだよね。今年に入って何軒も静岡県の古本屋を廻ったけど、行けば行くほど知らない店が出てくる。おそらく、古本の神様か何かがいて、僕が静岡県の古本屋をコンプリートしそうになると、駄目だぞ、まだまだそうはさせないぞ、と意地悪をして新しい店をぴょこんと創るんじゃないかな。だから永遠に静岡コンプリートはできない気がするよ」

「いや、ぴょこんとはできないでしょう、ぴょこんとは」

「そんなことはないよ。きっと、強く念じたらできるんじゃないか。ここに古本屋がないといけません。古本屋を創ってくださいと。世の中はそういう風にできているよ」

「どうかしてますよ」

若林氏は醒めた目でそう言うのであった。(つづく)

そして、静岡駅にやってきた。

(つづく)

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