街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年8月・静岡「ブックスランド馬場店」「あべの古書店」

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ブックスランド馬場町店。とにかくこの百円均一棚を見てもらいたい。

(承前)

8月某日

静岡市古本行はまだまだ続く。

更地になってしまったブックスランド安西店から安倍町の交差点まで戻り、右折する。この通りは県道27号線で、ずっと南下していくと御幸通りになり、そのまま静岡駅に至る。逆に言えば、静岡駅からは御幸通りを北上してくればいいことになる。下って車町の交差点で左折、この通りはアーケードになっており、よさげな飲食店がぽつぽつと見える。入ってすぐ、右側にあるのがブックスランド馬場町店だ。

■店頭で驚いて店内で喜ぶ

名前はいわゆる新古書店のような雰囲気だが、その内実はまったく異なる。この店の実力は、店頭の壁を埋め尽くす百円均一棚を見ればわかるはずだ。文庫、新書から単行本、大型本まで多様であり、前回来たときと品ぞろえがまったく違っている。ここでは毎回発見がある。今回の驚きは、1976、77年頃の少年サンデーと少年ジャンプが放出されていたことで、『まことちゃん』や『すすめ!パイレーツ』が表紙を飾る号を懐かしく眺めた。文学全集の不揃いが出ていたりすることもあるので、まったく油断ができない均一棚である。

古風な引き戸を開けて中に入る。横長の店内で、奥が帳場になっている。そちらに向けて櫛形に棚が四本。それを取り囲むように[]の字形に壁際には本棚がある。右奥一帯とそれに面した縦の棚に歴史・民俗学や地理、郷土本、趣味の本などがある。

古典芸能本もこの棚で、一龍斎貞鳳の初の随筆集『話の味覚』を発見した。序文が長谷川伸と村上元三、さらにサトウハチローは手書きでそのまま掲載されている。あとがきを見ると徳川夢声とフランキー堺に推薦の辞をもらったと書いてあるが、それは見えない。あるいは帯にでも記載されていたか。なんというか、すごい人脈である。貞鳳は後に国会議員になり、それが元で講談界を去ることになる。著作の代表は『講談師ただいま24人』で、今の神田松之丞のように講談界の将来を明るくすることに尽力しようとしていた。『講談師ただいま24人』にない、自身の修行時代について語った部分もあり、興味深い内容である。

右から2本目の縦の棚は主として文学、3本目とその近くの壁にコミックがあり、絶版ものなども多い。その裏から4本目に文庫で、裏にも幻想系など文学の本が並ぶ。ハヤカワ・ミステリはここで、ダブりだがロバート・ブロックの短篇集『夜の恐怖』が安かったので拾っておいた。左の壁奥にアダルト系のものがあり、ここに官能小説の珍しい本が出ることがあるので、ちゃんと見ておく。

電話で誰かとゲームの話をしていたらしい店主が通話を終えたので、勘定をしてもらう。ブックスランド安西店について伺うと、5年前に止めたとのことであった。やはり系列だったか。

■静岡古本界の西の横綱

店を出たら右へ。突き当りが浅間通りといって、北の行き止まりにある浅間神社の参道になっている。このへんはシャムに渡って英雄となった山田長政が生まれた場所で、銅像も建てられており、長政に因んだ祭りもあるようだ。

角から少し北上したところにあべの古書店がある。今回の大本命だ。

前にも書いたが、あべの古書店も店頭の百円均一棚が異常に充実している。店が開いてないときも本は出ていて、シャッターの郵便受けから中にお金を放り込む方式になっているのである。今回も旧い漫画雑誌などがあり、心がぐらぐら揺れる。

店は細長いq字形をしている。qの奥の丸の部分は、主に静岡県の郷土関係の本がある場所だ。縦棒は長い棚で仕切られており、手前のゾーンには壁際と中央棚の一部に文庫、その残りに児童書や主として新書形のコミックが並んでいる。コミックといっても絶版ものが多数で、特に昭和のナンセンス漫画に強い。谷岡ヤスジの探していた本があったのだが、残念ながら値段が折り合わず。コミックの裏は趣味やサブカルの棚になっており、ときどき特集的に内容を変えているように見える。

しかしこの入口周辺で特筆すべきは文庫棚である。ごく一部を除き、すべて百円なのだ。あれもこれもと買っていると荷物が重くなる一方なので、春陽堂文庫の笹沢佐保『霧に溶ける』と旺文社文庫の小松左京『やぶれかぶれ青春記』だけ手にする。ダブりだが、誰か要るだろう。

さらに奥に進む。右側の壁は手前から歴史・民俗学、地学・地誌、海外文学、幻想文学というように変わっていく。この店の特徴は細かくサブジャンル化されていることで、そのジャンルに含まれるものの解釈が店主独特なのが楽しいのである。中央の右側ゾーンは日本文学系で、結城昌治のかなり珍しい本があったがこれまた値段が折り合わず。中央の左側は戦争関係がずらりと圧巻である。これまた戦域や時代に応じて細かく分かれており、詳しい人にはたまらない棚だろう。その背後、qの○に面するあたりは大判コミックと美術書、写真集やムックなどが並ぶエリアで、奥に芸能関係の本がある。

帳場の前には戦前の本や雑誌が並ぶ。ここで前回は日本出版共同の『地下鉄サム4』を拾ったのであった。今回も同じ『地下鉄サム』の一巻目を発見、状態が悪いためか安かったので、ダブりを承知で買うことにする。さらにもう一度見直したら、日本文学の棚にジョルジュ・シムノン『水門の惨劇』が紛れ込んでいた。戦前に出たものを京北書房が復刊した版で、持っていたような気もするがシムノンなので思い切って買うことにする。そんなに高くない。この本は『シムノンと運河の殺人』として河出書房新社からも出ているが、まあ、いいだろう。シムノンだし。

勘定をしてもらうついでに、「山岳関係の本はありませんか」と訊ねる。「ああ、山岳でまとまってはいませんが、地理本のところに」と言うので、急いで引き返してチェックする。なるほど最下段で死角になっているところにいろいろあった。新田次郎の山岳推理ものなどもあるが、探している本はない。もう一つ、こういう物を知っている店主にする質問があって、ユースホステル関連の探求書について聞いてみたのだが、残念ながら扱ったことはないというの返事であった。

店を出るとすでに18時を回っていた。ホテルにチェックインしなければならない。地図で調べてみると、なんとあのブックスランド安西店に近い場所だった。回る順番を逆にすればよかった、などとぶつぶつ言いながら10分ほど歩く。

夜はお気に入りの多可能が日曜定休のため、第二候補の大村バーへ。複数のカウンターで構成されている店内はいつも活気があり、白衣の店員さんたちがとても愛想よく、気持ちのいい態度で接客してくれる。気分よく酔ってホテルに戻った。もう一日、静岡を歩くぞ。

(つづく)

香港の街頭にでもありそうな巨大看板が見えてくると嬉しくなる。

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