街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年8月・安部川「ブックボックス東新田店」・古庄「ブックマーケット・エーツー南瀬名店」・清水「清水書店」

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ブックボックス東新田店と私。

8月某日。

早起きして東海道線下りに乗り込む。

といっても言うほど早く起きる必要はなく、9時45分までに静岡県の安倍川駅に着けていればそれでいいのだ。横浜発7時の熱海行きで十分、乗り換えて8時23分の沼津行き。沼津を8時44分に出る豊橋行きが、9時46分に安倍川駅に着く。

安倍川は何度も歩いて渡ったことがある駅だが、西岸にある安倍川駅で降りるのは初めてだ。駅を出て西北に約15分、歩いたところにブックボックス東新田店がある。先日のブックボックス唐瀬通り店が思いがけない良店だっただけに、期待も膨らむのである。

駅を左に出てしばらく線路沿いに歩き、信号のある道を見かけたらそっちに曲がって西北へ向かって上がっていけばいいので、間違えようもない。途中でなぜか自転車に乗った老人に道を訊ねられたりして、予定通り10時の開店時間ちょうどくらいに店頭に立つことができた。道がX型に交差する場所にある、かなり大きな店舗である。唐瀬通り店よりも店構えは新しく、いかがわしさ度は少ない。コミックやDVDなんかが中心で本はそれほどないんじゃないかな、という先入観は、店に入ってすぐの眺めでさらに強まった。横に配置された棚はすべてコミックである。入口横を見るとやや珍しいコミックの棚があり、ガロ系作家などの希少本が多く置かれている。それを見て、単なる新古書店ではないということはわかったものの、私の主対象である本からは遠い。

とにかく安倍川まで来たことに意義があるので、それほど失望はせずに奥に歩いていく。しかし、入口から見て最奥部にあたる列まで来たときに眺めは一変した。左奥から始まる文学稀覯本の群れ。どれもこれもしっかりとした値付けで、軽い気持ちで店に入ってきた私に見事な意趣返しをしてくれる。持っていないかもしれないミュリエル・スパークを見つけたので手に取ったが、まさかの四桁、しかも四捨五入すると五桁になる額で、とても手が出ない。市場価格を反映して、しっかりした値付けなのだ。山田風太郎をはじめ、確認する本確認する本、いずれも感心するような値付けである。

その中で一冊だけ、これなら買えると思った本があった。ジョン・コリアの邦訳唯一の長篇『モンキー・ワイフ』である。見たら1100円、常識的な金額である。よし、これでなんとか坊主にならずに済む。ダブりなんだけど、まあいいや。棚を右端まで移動すると均一コーナーがあった。みなそれなりに100円になるべくしてなった本ばかりなのだが、その中になんと藤原審爾『天の花と実』が。一瞬でそのほかのことがどうでもよくなってしまう。ありがとう、ブックボックス東新田店。ここまで来てよかったよ。

この棚のさらに奥には文庫の列があったのだが、特筆すべき収獲はなし。嬉々として店を出る。失礼ながら外見だけだと街道沿いによくあるDVD専業店みたいなのに、中は実に濃厚な古本屋であった。もう一度ありがとう。また来る。

駅に戻り、一駅東海道線上りに乗って静岡駅へ。つい二日前にもこの駅にいたような気がするが、いや本当にいたのである。すっかり歩きなれた道をたどって新静岡駅へ。ここのバスターミナルから次の目的地に行くのだ。調べてみると5番乗り場の瀬名新田行が目的のものらしい。これに乗っていき、南瀬名町という停留所で下りる。そこに、ブックマーケット・エーツー南瀬名店があるはずなのだ。

5番乗り場に行ってみると、しずおかジャストラインのバスがすぐに出そうになっていた。慌てて飛び乗る。これで一安心、のはずだったのだが、次第に車は主街道を外れ、ひとけのないほうへ、山のほうへ、と入っていくのであった。南瀬名町の表示が出たら押そう、とボタンに指をかけているのに、気配もない。そのうちに、どう見てもこれは本屋はないだろう、という地名の停留所ばかりが出てくるようになり、終点の瀬名新田に着いてしまった。

やっちゃいました。

乗り間違えたのである。案内板で確認したら、新静岡駅から瀬名新田行のバスは二系統あって、静岡東高行きのものに乗ってはいけなかったらしい。幸い、もう一系統のものが間もなく瀬名新田を出るようなので、引き返すことにした。三角形の二辺を辿るような形で無駄な時間をかけているが、初めての店なのだから仕方ない。しばらくしてやってきたバスは、私を瀬名新田に連れてきた最初の車の運転手だった。またもや乗ってきた男を見て、どう思ったか。

今度は瀬名一丁目という停留所で下りる。そこから道を渡ったところに店はあるはずだ。探す手間もいらず、前方に看板塔と巨大な店構えが見えてきた。下校するらしき小学生がわらわらと歩いている中で、なんとか写真を撮る。

店内に入ってみると、そこはフィギュアの林立する趣味空間であった。処分品セールの表示などもあり、安い。フィギュアだけではなくDVDやゲームなどあらゆるアイテムが広大な敷地で売られており、その中には我が東方Projectのものもあって、一応何があるか確認せねば、という義務感に駆られる。めぼしいものは持っていたので大丈夫だったが、危ないところであった。なんというか、これは巨大な駿河屋だ。駿河屋というのはアニメ・マンガの商業・同人版商品を手広く取り扱っている通販ショップで、静岡駅前に巨大な店舗を構えている。後で調べてわかったが、エーツーと駿河屋は同系列の経営なのであった。

さて、到達したはいいものの肝腎の本がない。探してみると入口近くに一般書のコーナーがあった。文庫棚は一冊50円、しかも5冊で100円という馬鹿安である。見てみるとジュール・シュペルヴィエル『ノアの方舟』(ハヤカワ文庫NV)と大林清のロマンス小説『慾望の河』(春陽文庫)がある。これ二冊で100円だ。ダブりではあるが、なんとか買えるものが見つかったので、店を出ることができた。

ブックマーケット・エーツー南瀬名店。この他のエーツーも本はあるのかな。

さあ、移動である。とりあえず店の南側を流れる長尾川を渡って国道一号線を超え、静岡鉄道の古庄駅を目指す。

ここからの行動パターンは三つある。一つは、草薙駅で永年の課題店であったにし古書倶楽部の存否を確かめること。もう一つは同じく先日振られて気になっている清水の清水書店に行くこと。三番目は沼津駅近くの宿題店マンガやに行くことだ。夜18時には上野広小路にいなければいけないので、行けてあと一店舗である。悩んだ結果、第二の選択肢をとった。にし古書倶楽部はここ数年何度も前を通っているのだが、古書店として営業している気配がない。どうも骨董店に転じてしまったようなのだ。マンガやは逆に、沼津駅から至近であるので、このあといくらでも行けるような気がする。最も生きにくい、清水書店を選ぶべきだろう。

静岡鉄道の終点である新清水に着いた。ここでも選択肢は二つある。一つはおとなしくしずてつジャストラインのバスに乗る。もう一つはタクシーを拾ってでも時間を短縮して現地に行くことだ。デッドラインは迫っていて、清水書店との往復に使えるのが1時間もなかった。タクシー乗り場に直行するが、一台も待ちはない。諦めかけていたところに、道の反対側に一台がやってきた。大きく手を振って停め、乗り込む。

「中矢部町の清水書店にお願いします」

「中矢部はええけど、そんなところはあるかなあ」

「あるんです」

この間振られたばかりです。

運転手に場所を説明し、急行してもらう。途中にブックオフが見えたが、もちろん気にしている余裕はない。やはりタクシーというのは便利なもので、5分ほどで目的地に着いた。

清水書店のシャッターは閉まっていた。

「お休みじゃね」

「休んでますねえ」

車を下り、一応来たという証拠写真だけは撮る。

「運転手さん、JRの清水駅まで引き返してください」

往復2700円だったかの運賃が無駄になったが、決してこれは徒労ではない。失敗を繰り返し、事実を確認することが明日に向かうための重要な積み上げになるのだ。

まさに難攻不落。

再び車中の人になるともうすることもなく、おとなしく東京へ。上野東京ラインを新橋で下りて御徒町まで行き、そこから上野広小路亭へ。18時から立川談四楼さんと木村勝千代さんの二人会なのである。演目は「三年目」(談四楼)「浴衣まつり」(勝千代)「慶安太平記 箱根山」(勝千代)「人情八百屋」(談四楼)で、まことに結構である。

終演後、少しだけ談四楼さんとお話をして帰る。帰りながら藤原審爾『天の花と実』を100ページほど。するする読める。やはり藤原審爾は小説の神様だと再認識したのであった。

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