幽の書評vol.12 辻村深月『ふちなしのかがみ』

声にならない呟きが空間を満たしていく いつか恐い話を書くだろうな、と予感はしていた。辻村深月のことだ。彼女の書くミステリー小説には、声にならない囁きが満ちていたからである。辻村作品を読むと、いつも青春時代の暗い面に思いを馳せさせられる。たとえば『太陽の坐る場所』(文藝春秋)を読めば、行間からアノトキハ言エナカッタ……、本当ノ私ハココニイル人間デ...

記事を読む

幽の書評VOL.11 高橋克彦『たまゆらり』

幽の書評VOL.11 高橋克彦『たまゆらり』

途切れた記憶が思わぬ魔を呼びよせる 高速で空中を動き回る、黒い玉がある。ビデオ映像などに写りこんだ謎の物体は、たまゆらと名づけられた。〈私〉は、その正体を解明したいという思いに駆り立てられるのだが――。 『たまゆらり』は、不思議現象に取りつかれた男を描く標題作をはじめ、全十一篇を収めた短篇集だ。収録作のうち六篇が年間傑作選のアンソロジーに採られて...

記事を読む

幽の書評vol.10 東雅夫編『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』

幽の書評vol.10 東雅夫編『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』

作中の出来事よりも作者の眼差しの方に恐怖する。残酷な運命を描かずにいられない小川未明とは 小川未明は、怖い。何が怖いといって、作者の眼差しが怖いのである。未明は自らの創造した作中人物に、残酷極まりない運命を与えようとする。 本書収録作の「越後の冬」がいい例だ。こういう話である。上越後の山中に、母と二人で暮らす太吉という少年がいた。ある雪の日、太吉...

記事を読む

幽の書評vol.9 若竹七海『バベル島』

幽の書評vol.9 若竹七海『バベル島』

〈あやし〉のグラデーションが読者を魅了する。読者を思わぬ方向へと連れ去る恐怖小説集 ――梅の樹は生きているもののごとく、多量の樹液をほとばしらせて、どうと倒れた。 若竹七海の最新短篇集『バベル島』の劈頭に収められた「のぞき梅」は、ある旧家の庭に立っていた白梅の木をめぐる奇譚である。夭折した友の家族に招かれ、その家を訪れた主人公が、たまたま梅酒のゼ...

記事を読む

幽の書評vol.8 恒川光太郎『秋の牢獄』

幽の書評vol.8 恒川光太郎『秋の牢獄』

ないもの、ありえないことを現出させる驚異の筆力。日本ホラー小説大賞作家が描くかくれざと三篇 恒川光太郎の最新作は、密度のある語りが楽しめる一冊だ。恒川は、短篇「夜市」によって第十二回日本ホラー小説大賞を受賞した作家である。本書は、受賞作を収録した同題短篇集と第一長篇の『雷の季節の終わりに』(ともに角川書店)に続く第三の著作ということになる。 『雷...

記事を読む

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年12月・武蔵小山「九曜書房」ほか

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年12月・武蔵小山「九曜書房」ほか

12月30日に古本屋を巡った話の続き。 そんなわけで学芸大学駅の飯島書店で掘り出し物にぶつかり、いつもならもうおなかいっぱいなのだが、この日は「どうせ仕事にならないし」という自棄気味の外出なので、さらに深みにはまることにした。目指すは東急目黒線の武蔵小山駅である。 目黒は南北に細長い区だ。鉄道路線はその通りには走っていないので、縦に移動し...

記事を読む

幽の書評vol.7 森見登美彦『きつねのはなし』

幽の書評vol.7 森見登美彦『きつねのはなし』

人智を超えたものが蠢く、蜃気楼の街・京都。第二十回山本周五郎作家が世に問う、初の怪談小説集 森見登美彦は蜃気楼のような小説を書く作家である。蜃気楼は大蛤の見る夢だというが、森見の場合は、四畳半に独居する男の夢想が像を結んだものだと思われる。連作集『四畳半神話大系』(太田出版→角川文庫)収録の「八十日間四畳半一周」は、永遠に続く四畳半の中に男が閉じ込めら...

記事を読む

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年12月・学芸大学「飯島書店」

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年12月・学芸大学「飯島書店」

ライターという仕事は居職だから、机の前を離れると何もできない。人によってはカフェにパソコンを持ち込んで原稿を書くこともできるようなのだが、私は無理なのである。背後にある書棚から適宜参考文献を持ってこないとその先に進めなくなる。そこはネット検索で済ませられない部分で、職人が自分の仕事道具一式と暮らしているのに近い。書棚は仕事道具なのだ。 そういう...

記事を読む

幽の書評vol.6 エドワード・ゴーリー編『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』

幽の書評vol.6 エドワード・ゴーリー編『憑かれた鏡 エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談』

その鏡は見る人の恐怖を増幅させる。奇想の作家エドワード・ゴーリーが選んだ選りすぐりの怪談集 その庭にはいくつもの石板が転がされている。形状から、それが単なる板ではなく石碑であることがわかる。禿頭の巨漢が、木陰に腰を下ろして休んでいる。もう一人の痩せた男が、立ったまま彼に話しかけている。二人の会話に耳をそばだてるような位置に、正面を見せて石碑が立っている...

記事を読む

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・中村橋「古書クマゴロウ」

街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2019年1月・中村橋「古書クマゴロウ」

西武池袋線の中村橋という駅にはあまり縁がなくて、最後に下りたのはまだ勤め人だった二十年以上前のことではないかと思う。「少年チャンピオン」で『探偵ボーズ21休さん』というミステリー漫画の連載が始まることになり、私を含めた何人かにトリックプランナーのお手伝いをする話がまわってきた。その顔合わせということで、中村橋の中華料理屋に集まったのであった。これは別...

記事を読む

スポンサーリンク
1 2 3 4 40