杉江松恋不善閑居 浅草木馬亭九月公演七日目

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某月某日

あっという間に木馬亭九月公演七日目、楽日である。今月は七日のうち四日間しか通えなかった。玉川太福独演会があったので五日間木馬亭には来ているのだが。一日はミュージックテイトの会にも行っているので六日間は浪曲を聴いているのだが。もう少し精進しよう。来月は全日観覧を目指したい。その目指した先に何があるのかは聞かないでもらいたい。

馬子唄しぐれ 東家三可子・東家美

深川裸祭り 港家小そめ・玉川祐子

小猿七之助 品川宿 木村勝千代・佐藤貴美江

無法松の一生 鳳舞衣子・伊丹明

日蓮記 瀧ノ口の法難 東家一太郎・東家美

井伊直人 宝井琴鶴

名工二代 肉付きの面 富士琴美・伊丹明

鶴女房 澤順子・佐藤貴美江

この日のトリは天中軒雲月さんの代演だったのだが、澤順子さんの「鶴女房」は非常に良かった。民話の「鶴女房」は「見るなの間」の民俗譚の定型に沿っている。だが、大西信行脚本の浪曲「鶴女房」は、男がつうが鶴に化身している姿を見るというくだりがない。千両もらえるという反物に目がくらみ、嫌がる女房に拳を振り立てて機屋に追い立てるのである。そこで体力の限界を感じたつうは鶴の姿に戻って逃げ出すが、反物を織るためにあまりにも多くの羽根を抜いてしまって息も絶え絶えである。もう駄目かと思ったときに天から無数の同胞たちが降ってきて、彼女を救う。

大西信行がどこまで意識したかはわからないが、これはDVからの脱出物語になっている。傷ついたつうを救いに現れる鶴は同性からの援助の隠喩だ。いったん逃げ出すと決めたら男のコントロールを受けないため、一切のコミュニケーションを拒んで脱出するという点もいい。暴力を振るう者は言葉でも相手を支配しようとするからだ。男が逃げた女房を恋しがって「つうよ、戻ってきてくれ」と絶叫して話は終わる。男に一切の救いを与えず突き放している点も非常に良い。大西脚本は時に昔の倫理観のままで現代でそのまま演じるのはどうかと感じることもあるのだが、これは非常にいいと思った。

本日のお目当ては木村勝千代さんだったが、「小猿七之助」だったのが大当たり。江戸にいられなくなった男が数年ぶりに戻ってきて品川宿で逡巡している一夜の物語というのがいい。勝千代さんの節は七之助の弱い内面を曝け出していて、胸に迫った。

「肉付きの面」はたぶん初めて琴美さんを聴いたときの読み物で、安定の良さであった。バラシに入ってからの節が特にお気に入り。「瀧ノ口の法難」は以前に横浜にぎわい座で照明の特殊効果付きのものを聴いているのだが、美さんの三味線一本でも非常に良かった。処刑者が日蓮の威厳を怖れて切れず、三度目にして振り下ろそうとした刀が雷撃で折られるというクライマックスが非常に盛り上がる。このほか講談の「井伊直人」は奈々福さんのやる「仙台の鬼夫婦」の講談版で、もっと長い話の一部なのだとか。全体は聴いたことがない。

いろいろあって帰宅したところで、12月20日に昨年もあった「大忠臣蔵」興行が開催されるという情報が入ってきた。昨年は京山小円嬢さんがかけた「忠僕直助」を、今年は天中軒雲月さんが演じられる。マッハの勢いで演者予約したので、みなさんもどうかお忘れなく。宮岡博英事務所のブログから詳細はどうぞ。

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