小説の問題 一覧

小説の問題vol.35 「ふしぎとばらばら」東郷隆『鎌倉ふしぎ話』・伊坂幸太郎『オーデュポンの祈り』

この欄で前に書いたことがあるかどうか忘れてしまったが、私は学生のとき落語研究会にいたことがある。 その会では、はじめにごく短い小噺を習い、次にもう少し長くて起承転結のある小噺、それから「寿限無」や「道具屋」みたいに簡単な噺を始める、といった稽古のつけ方をしていた。「夕立屋」というのが、その二つめの噺である。 夏の暑い盛り、ご隠居が縁側...

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小説の問題vol.34 「ちくりと痛いユーモア」天藤真『親友記』・白石一郎『横浜異人街事件帖』

小説の問題vol.34 「ちくりと痛いユーモア」天藤真『親友記』・白石一郎『横浜異人街事件帖』

ファイルを探していたら、連載原稿が2回分見つからないことに気がついた。2000年11月分と12月分である。通し番号が2つ飛んでいるのはそのため。発見次第、そこは埋める予定だ。 最近、ミステリーの世界では古典作品の復刊が大はやりで、ファンにとっては、おもしろいことになっている(注:2001年)。 たとえば、ちょっと前に光文社...

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小説の問題vol.31 「地震でてんやわんやの密室」獅子文六『てんやわんや』・古処誠二『少年たちの密室(現・フラグメント)』

小説の問題vol.31 「地震でてんやわんやの密室」獅子文六『てんやわんや』・古処誠二『少年たちの密室(現・フラグメント)』

とりあえず今月読まなければいけない本は、獅子文六『てんやわんや』である。 この本は、「新潮文庫二〇世紀の一〇〇冊」という企画の一環で再刊されたものだ(注:2000年)。一九〇一年に刊行された『みだれ髪』にはじまって、以降一年に一作という規則により百冊の文庫全集を作ろうという企画で、ラインナップもそれなりの布陣である。もちろん、細かいこと...

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小説の問題vol.30 「小体で小粋で」吉川潮『浮かれ三亀松』・乙一『夏と花火と私の死体』

小説の問題vol.30 「小体で小粋で」吉川潮『浮かれ三亀松』・乙一『夏と花火と私の死体』

吉川潮の小説が好きだ。吉川潮の名前を知らない読者はまさかいないだろうと思うが、春風亭柳朝の一代記を描いた『江戸前の男』(新潮文庫)の作者である。長唄三味線の師匠を父に持ち、音曲師の芸人を妻にするという、氏と育ちの平仄の合った生き方は、当節実に珍しい。ある意味異色の小説家といえるだろう。 そんな人が、江戸前の心意気を語ると実にここ...

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小説の問題vol.29 「小説を豊かにする趣向とは?」ベルンハルト・シュリンク『朗読者』・折原一『遭難者』

小説の問題vol.29 「小説を豊かにする趣向とは?」ベルンハルト・シュリンク『朗読者』・折原一『遭難者』

ベストセラーというと最初から軽蔑して読まない人がいるが、あれは読書人の態度としてよろしくない。人がいい、いいと騒ぐものには、必ずなにがしかの価値観がこめられているはずである。それはなにか、ということを確かめるためだけでも、読んでみるべきだ。 実際に読んでみると、これは自分の価値観とは違う、と感じることもあるが、その違和を放置しないで、なぜ自分と...

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小説の問題vol.28 「やさしいことって難しい」佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』・山口雅也『続・垂里冴子のお見合いと推理』

小説の問題vol.28 「やさしいことって難しい」佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』・山口雅也『続・垂里冴子のお見合いと推理』

最近で最も興奮した出来事は、劇団水族館というところの公演を観に行ったことだった(注:2000年)。公演といっても、いわゆる小屋掛け芝居である。こういう演劇を観るのは、今は亡き渋谷ジァン・ジァンで寺山修司「毛皮のマリー」を観て以来だから、おそろしく久しぶりのことだった。 そんな演劇素人の私が言うのもなんだが、この「廃墟のディアスポ...

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小説の問題vol.27 「「私」を遠く離れて」宮本昌孝『剣豪将軍義輝』&逢坂剛『禿鷹の夜』

小説の問題vol.27 「「私」を遠く離れて」宮本昌孝『剣豪将軍義輝』&逢坂剛『禿鷹の夜』

今回はちと、偏屈に。 小林よしのり『「個と公」論』が刊行されたが、一昔前であればこの題名は『「私と公」論』とされたはずである。「公」の対立概念が「個」と考えられるようになったのは、ごく最近のことだ。 「私」の古字は「厶」である。曲がった形を書いて、自分のためにのみ図り考えることをあらわすというが、「わたくし」とは「よこしま」なことを指した...

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小説の問題vol.26 「人生の暗黒面の描きかた」池井戸潤『架空通貨』&池波正太郎『江戸の暗黒街』

小説の問題vol.26 「人生の暗黒面の描きかた」池井戸潤『架空通貨』&池波正太郎『江戸の暗黒街』

私は大学で文学部に在籍していたのだが、よくわからない妙な研究を続けていた。他人に「専攻は?」と尋ねられると、 「できますものは、歴史学、日本文学、倫理学、宗教学、西洋哲学、民俗学、経済学、……のようなもので」 と、まるで落語「居酒屋」の小僧さんのような答え方をするのだが、相手は目を白黒させ、聞いてはいけないことを聞いたかのような顔をしてど...

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小説の問題vol.25 「湯豆腐にこめられた思い」里美真三『賢者の食欲』&北村薫『冬のオペラ』

小説の問題vol.25 「湯豆腐にこめられた思い」里美真三『賢者の食欲』&北村薫『冬のオペラ』

今月ご紹介する『賢者の食欲』は、九七年から九九年まで「諸君!」に連載された「食」に関する好エッセイである。 著者の里見真三は、身の丈に合った飲食の楽しみを“B級グルメ”として提唱する「食」の趣味人である。実際に店で供される料理の皿を原寸大写真で紹介する『ベストオブ丼』『すし』『蕎麦』のシリーズを読まれた方もあるいは多いだろう。また、『す...

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小説の問題vol.24 「信濃の山から生まれ、山に帰る小説」津本陽『真田任侠記』&出久根達郎『紙の爆弾』

小説の問題vol.24 「信濃の山から生まれ、山に帰る小説」津本陽『真田任侠記』&出久根達郎『紙の爆弾』

険しい山肌に囲まれた摺り鉢の底のような河原。藍碧の空の下、二人の男たちが腰を下ろして会話を交わしている。 誰あろう、信州上田城主真田昌幸の家来、猿飛佐助と霧隠才蔵である。主君昌幸は、今まさに出陣せんというところ。相手は名将徳川家康の軍勢七千余騎。兵数わずか二千の真田勢にとっては一大事である。しかし-- 「徳川の奴輩は平地のはたらきをい...

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