ミステリー 一覧

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリーベスト候補作 ドン・ウィンズロウ『ザ・カルテル』(峯村利雄訳/角川文庫

 メキシコ・カルテルの撲滅という使命を奉じる男アート・ケラーと若き麻薬王アダン・バレーラの三十年戦争を描いた『犬の力』(角川文庫)は、喩えるならば麻薬戦争の神話、すなわち神と悪魔の間で繰り広げられる最終戦争を描いた作品だった。その続篇である『ザ・カルテル』の舞台となるのは、もはや神の存在しない世界である。絶対的な力を持つ者が全体を統御できる時代は終わった。麻...

記事を読む

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリーベスト候補作 ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』(池田真紀子訳/文藝春秋)

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリーベスト候補作 ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』(池田真紀子訳/文藝春秋)

 ジェフリー・ディーヴァーは時代の空気を嗅ぎ分ける性能の良い鼻を持っている。たとえば、リンカーン・ライム&アメリカ・サックスの連作では2008年発表の第8作『ソウルコレクター』(文春文庫)以降、先端的な社会問題を利用して悪人が犯罪計画を企む物語が連続して発表された。『煽動者』は同シリーズから派生した、キャサリン・ダンスが主役を務める連作の第4長篇だが、本書で...

記事を読む

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第8位 ベン・H・ウィンタース『世界の終わりの七日間』(上野元美訳/ハヤカワ・ミステリ)

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第8位 ベン・H・ウィンタース『世界の終わりの七日間』(上野元美訳/ハヤカワ・ミステリ)

 間もなく世界が終わるのに、殺人事件の謎を解くことに意味があるか。 その問いを初めて読者に呈示したのはエラリー・クイーン『シャム双子の謎』(創元推理文庫)だった。探偵エラリーにとっての世界の終わりとは山火事に遭って関係者が全員焼死するという局地的な出来事だったのだが、それを世界的な規模に拡大し、小惑星の衝突によって地球文明自体が崩壊するという事態を三部...

記事を読む

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第7位 ハンナ・ジェイミスン『ガール・セヴン』(高山真由美訳/文春文庫)

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第7位 ハンナ・ジェイミスン『ガール・セヴン』(高山真由美訳/文春文庫)

〈わたし〉の両親と五歳の妹は、彼女が男にクンニリングスをさせている間にマチェーテを持った傍観に惨殺された。過去と対面することを避け、ロンドンの底へと潜り込んだ〈わたし〉は、時にセックスのサービスを提供することもあるクラブで働き始める。状況が変わり始めたのは二つの出会いがあったからだ。一つは物柔らかな外見だが、その実は一流の殺し屋という評判のあるマーク・チェス...

記事を読む

bookaholic認定2016年国内ミステリーベスト10選考会議「このミステリーがすごい」とこの3人が言います

bookaholic認定2016年国内ミステリーベスト10選考会議「このミステリーがすごい」とこの3人が言います

2週間後の12月14日、翻訳ミステリー編に引き続き、国内ミステリーもあれをやっちゃいます。 多くのランキングは投票方式ですが、あえて数の論理を無視し、議論のみで順位を決めるという企画です。かつてCS「ミステリーチャンネル」内に存在した「闘うベストテン」と同趣向で、現在最強のミステリー評論家の一人である千街晶之さん、若手の俊英・若林踏さんをお招き...

記事を読む

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第1位 『彼女が家に帰るまで』ローリー・ロイ(田口俊樹・不二淑子訳/集英社文庫)

杉江の読書 bookaholic認定2016年度翻訳ミステリー第1位 『彼女が家に帰るまで』ローリー・ロイ(田口俊樹・不二淑子訳/集英社文庫)

 町の婦人部の寄り合いから帰宅したはずの、エリザベスという娘が失踪した。住民の男たちが彼女の行方を捜し続ける中、その妻たちは各自の思いに心を乱されていた。エリザベスを最後に目撃した女性ジュリアは、我が子を生後数ヶ月で失ってしまったという事実からまだ立ち直れていない。男たちが働く工場近くで黒人女性が撲殺された事件に執着するマリーナは、夫に自分の考えていることを...

記事を読む

20161123「このミステリーがすごい」とこのふたりが言います。 川出正樹×杉江松恋

20161123「このミステリーがすごい」とこのふたりが言います。 川出正樹×杉江松恋

11月23日、祝日の夜にあれをやっちゃいます。 年末も近くなって、今年を代表するミステリーは何か、だんだん気になってきた方も多いのではないでしょうか。 多くのランキングは投票方式ですが、あえて数の論理を無視し、議論のみで順位を決めてみようと思います。かつてCS「ミステリーチャンネル」内に「闘うベストテン」という企画があったのをご記憶の方は...

記事を読む

杉江の読書 法月綸太郎『挑戦者たち』(新潮社)

杉江の読書 法月綸太郎『挑戦者たち』(新潮社)

――古典的な探偵小説に見られる「読者への挑戦」が、作中でいかなるポジションを占めるかによっては長年論争が続いている。[……]  法月綸太郎『挑戦者たち』の「46 分類マニア」はこのような書き出しで始まる。それ以下の文章では「挑戦状」が含まれるのは問題編か解決編かという4つの学説が提示されるのだ。そうした議論がどこかで実際に行われている可能性はあるが、記...

記事を読む

杉江の読書・『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(高儀進訳/白水社)

杉江の読書・『イーヴリン・ウォー傑作短篇集』(高儀進訳/白水社)

 イーヴリン・ウォーの短篇で最初に読んだのは「ミステリマガジン」に訳載されたTactical Exerciseではないかと思う。第二次世界大戦によって人生を狂わされた男の話で、戦前に持っていたすべてのものを失ったジョンは、次第に妻・エリザベスへの憎悪を募らせていく。夫と妻の犯罪を描いた作品は他にいくらでもあるが、この小説を唯一無二のものにしているのはその特殊...

記事を読む

スポンサーリンク