杉江の読書 法月綸太郎『挑戦者たち』(新潮社)

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――古典的な探偵小説に見られる「読者への挑戦」が、作中でいかなるポジションを占めるかによっては長年論争が続いている。[……]

51cug20nrul-_sx331_bo1204203200_ 法月綸太郎『挑戦者たち』の「46 分類マニア」はこのような書き出しで始まる。それ以下の文章では「挑戦状」が含まれるのは問題編か解決編かという4つの学説が提示されるのだ。そうした議論がどこかで実際に行われている可能性はあるが、記載された諸説は法月による創作である。「78 黄金比率」では挑戦状がどのページに挿入されるべきかという議論が繰り広げられる。挑戦状と本文の隙間を〈絶対領域〉と呼ぶのが可笑しいのだ。99の断章から成る本書は「読者への挑戦状」を題材にした言語遊戯作品だ。それぞれの章は前掲のようにしかつめらしいだけでなく「11 こんな「読者への挑戦」はイヤだ!」のようにごく下世話なものもあり、硬軟さまざまである。私が気に入ったのは「42 挑戦状アレルギーの弁」で、ある有名なミステリー・エッセイのパロディになっている。元ネタのあるものは巻末に文献リストがあるので、気になる人は最後に覗いてみるといいだろう。

この言語遊戯のお手本を法月は終盤で明かしているが、ここでは書かずにおく。最近の法月は『ノックス・マシン』で〈ノックスの十戒〉に着目するなど、ミステリーというジャンルの特異性を主題にする作品を多く発表してきた。その延長戦上にあるのはもちろんだが、片岡義男や故・小鷹信光らによるコラム「パロディ・ギャング」や浅倉久志編『ユーモア・スケッチ』などの味もある。私が連想したのは小林信彦が「ヒッチコック・マガジン」編集長時代に手掛けた、もしあの人がホームズを訳したら、というギャグ・スケッチだった。エド・マクベイン訳やテネシー・ウィリアムズ訳に混じって、なぜか富永一朗訳「ホームズおやじ」があるのだ。そういうのがお好きな人にぜひ、本書は読んでもらいたい。

(800字書評)

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