街てくてく~古本屋と銭湯、ときどきビール 2018年12月・武蔵小山「九曜書房」ほか

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もしもTVチャンピオンに古本王選手権があって写真から店名を答える問題が出たら、この風景は必ず採用されるだろう

12月30日に古本屋を巡った話の続き。

そんなわけで学芸大学駅の飯島書店で掘り出し物にぶつかり、いつもならもうおなかいっぱいなのだが、この日は「どうせ仕事にならないし」という自棄気味の外出なので、さらに深みにはまることにした。目指すは東急目黒線の武蔵小山駅である。

目黒は南北に細長い区だ。鉄道路線はその通りには走っていないので、縦に移動しようとすると何度か乗り換えをしないといけない。学芸大学から武蔵小山へは田園調布で乗り換えが必要だ。ニ十分もあれば行けるのでたいして時間もかからないが、歩いても三十分はかからない距離なのである。まっすぐ南に下りていくだけ。なので、学芸大学にいるときはいつもてくてく歩いてしまう。

武蔵小山で用があるのは九曜書房である。駅から近い場所にあるこの店は、棚の分類に個性があり、しばらく見ないとなんだか人生が物足りなくなってくる。サブカルチャーというような分類ではなく、もっと視点は細かいのである。そういうタグが出ているわけではないが、「おなら」でひと塊あるのは都内でも九曜書房だけではないだろうか。中央に両面の棚があり、左側の手前に文庫が多めで奥は郷土資料関係、右側は上に書いたおなら(というかスカトロジー)などの小さいジャンルや寺山修司、真鍋博といった作家ごとのコロニーが同居している見飽きない島だ。そして両側の壁にも密度の高い棚。たとえば芸人本でも、ここの品揃えは一味違う。他では見ない芸人の本を見つけてしばらく悩んだが、この日は買わず。入って右側すぐの均一棚で持っていなかった三遊亭円丈の本、『雁道』を見つけてしみじみと嬉しかった。九曜書房の均一棚はここと、店を出た真正面に入口と向き合うようにして置かれている外の棚の二ヶ所である。外の均一棚はいつも誰かが眺めているので、遠くから見ても、あそこが九曜書房だ、とわかる。

ここからさらに南東に下りて大井町を目指す手もあるのだが、さすがに休んでいると徒労感が凄まじいだろう。すでに午後になっていたので、19時のイベント開始に向けて北上を開始することにした。というわけで目黒線と平行に歩きつつ途中で目黒不動の方に逸れ、山手通りに合流する。もしやっていれば、目黒駅前の権之助坂で老舗・弘南堂書店に寄る肚である。目論見は当たり、見事に開いていた。細長い店内の中央奥に帳場、その前に中央の長い棚があり、振り分けの形で両側に棚という古本屋の基本のような売り場だ。しょっちゅう来ているのでそれほど見逃しはないはずだが、こういう時のために手付かずで残しておいた小沢昭一『話にさく花』を買う。小沢昭一は全著作を文庫で復刊してもらえないものだろうか。

ここからどんどん山手通りを北上する。中目黒駅を通り過ぎたあとは、北東に進路を切る。暗渠となった蛇崩川の流れに沿うような形で歩いて行けば、世田谷公園である。三宿交差点には二つの古本屋、江口書店と山陽書店があるが、とりあえず前者は閉まっていた。というか、もともと平日午後だけの営業なのである。山陽書店には寄らずに246を三軒茶屋駅方面へ。茶沢通りで右に曲がって北上すれば、間もなく骨董やレコードなども扱う趣味のいい店、SOMETIMEだ。店頭の均一棚にダブりだが誰かに押し付けてもいい本をいくつか見つけたが、結局夏井いつき『絶滅危急気語辞典』(ちくま文庫)だけを買う。こういう本を眺めながら知らない言葉について読むのが好きなのだ。自分の語彙にはならないかもしれないけど、その言葉の周辺がなんとなく知っている道のように感じられるようになる。

SOMETIMEから先は下北沢までひたすら歩くだけである。日も暮れて、そろそろお尻が厳しくなってきた。下北沢駅周辺は数ヶ月前にも来たのでたぶん大きな発見はないと思うが、とりあえずB&Bまで来た証拠に古本屋には寄っていくのである。いや、わざわざ寄らなくてもB&Bで本を買えばいいではないか。そういう意見を聞きたいわけではありません。

残り時間が厳しくなったところで駅近くまでやってくる。物事は順番に片付けたほうがいいので、まずは古書ビビビ。店頭に置かれた棚のガラス戸を開き、急いで中を見る。絶対に持っているのだが、ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を。絶対持っているのだけど小鷹信光訳だから。絶対持っているけど。

そこから茶沢通りを渡って北沢タウンホール脇のほん吉へ。もはや店内をゆっくり見ている時間はない。店頭均一棚で開高健・谷沢永一・向井敏『書斎のポ・ト・フ』(潮出版社)、中田耕治編訳のアンソロジー『殺人がいっぱい』、講談社文庫の短篇集『ハメット死刑は一回でたくさん』を。『書斎のポ・ト・フ』は鼎談書評の最高峰だし、あとの二冊も本のタイトルが対になってるね、ちょっと気が利いてるね、などと言いつつ駅を越え、商店街の中にある古書明日へ。文庫棚でアラン・シリトー『ウイリアム・ポスターズの死』(集英社文庫)とヒラリー・ウォー『パーク・サイドの殺人』(ケイブンシャ文庫)を拾ったのが限界で、残るクラリスブックスはちょっと中を覗いただけで終わったのだった。

なんとか開演ぎりぎりにB&Bに到着。この日は大森望さん、栗原裕一郎さん、豊崎由美さんと2018年を振り返るというイベントであった。

「今、武蔵小山から歩いてきたんですよ」

息を切らせて報告したら豊崎さんに、

「あなたもさあ、結構いい年になってきたんだから、あんまり無理はしないほうがいいよ」

しみじみとした口調でご忠告いただいた。

はあ、まったくそのとおりでございます。

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