杉江の読書 天龍源一郎『完本・天龍源一郎 LIVE FOR TODAY いまを生きる』(竹書房)

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誰が呼んだか「北向き天龍」。

51yuapjftl-_sx344_bo1204203200_ 大相撲で前頭筆頭まで昇り詰めたのちプロレス界に転じ、馬場・全日本での三冠ヘビー級王座戴冠をはじめとする数々の輝かしい戦績を残した、天龍源一郎が奉られた仇名だ。「北向き」とはへそ曲り、変わった性格のことを言う隠語である。

このたび刊行された自伝『完本・天龍源一郎』を読んで、北向きゆえの魅力に改めて気づかされた。斜に構えた姿勢とは、自分自身を第三者の視線で見られる客観性のことでもある。

――俺はアメリカで三回クリスマスを過ごしている。みんながホームパーティーやっているクリスマスに、誰からも声を掛けてもらえない俺はアパートの部屋でボケッと過ごしていた。だから今でもクリスマスソングを聞くと寂しい気持ちになってしまう俺がいる。

天龍のインタビューを読むと、この独特の物言いを頻繁に見かける。「○○していた俺がいましたよ」といった形で、そのときの自分を突き放すかのように表現するのだ。特に辛かった過去や未熟だった過去の自分について言及するとき、はにかみに満ちた口調になる。

天龍源一郎の格闘家生活は決して順風満帆だったわけではない。相撲廃業は二所ノ関部屋の分裂騒動に巻き込まれて嫌気がさしたためだし、プロレス界入りしても自身の情熱を受け入れてくれる仲間に恵まれずに途方に暮れることがたびたびあった。「北向き天龍」はそうした苦悩によって生まれたものだったろうが、自身を厳しく見据えられる強さも同時に養われたのである。天龍源一郎というと反骨の人というイメージがあるが、彼の語りは荒々しさよりも、むしろ理知的な印象を読む人に与える。その理由がこれなのだと私は思う。

本書は1994年の著書『瞬間に生きろ!』に大幅加筆訂正したもので、編年体で詳しく過去が振り返られている点が嬉しい。2015年の引退後に出た類書の中では、妻・まき代氏と長女・紋奈氏との共著『革命終焉』と共に、読むべき本である。

(800字書評)

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