杉江の読書 『つげ義春全集4』(筑摩書房)

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%e3%81%a4%e3%81%92%e7%be%a9%e6%98%a5%e5%85%a8%e9%9b%86%ef%bc%94 つげ義春の作家人生は2つの出来事によって大きな転機を迎えた。1つは「噂の武士」が掲載された1965年8月号以降、「ガロ」に執筆の機会を得たことである。同年内には「沼」「チーコ」という自身の節目となる2作品を書いたが、本人の意気込みも虚しく当時の評判は芳しくなかった。同じ貸本漫画出身の水木しげるが「週刊少年マガジン」の『墓場の鬼太郎』連載用にアシスタントを必要としており、つげは1966年よりこれを引き受ける。水木と面識はあったが特に親しい間柄ではなかった。しかし水木の仕事を手伝うことで生活は安定し、絵柄も大きな影響を受けたのである。

『つげ義春全集4』(現・『つげ義春セレクション 李さん一家/海辺の叙景』ちくま文庫)には「ガロ」執筆前夜の作品と、1965年から67年にかけて発表した書作が収録されている。発表時期では1966年に空白があるが、言うまでもなく水木のアシスタントに忙殺されていたためである。この期間に細密な背景と漫画記号で描かれた人物画が同居する水木特有の画風に触れたことが、写実的な路線へのつげを向かわせたのだろう。影響関係ということでいえば、やはり貸本漫画出身の白戸三平とつげは1965年9月に千葉県大多喜町の寿恵比楼旅館に10日間以上滞在している。このときにつげが描き上げたのが「不思議な絵」であり、「初茸がり」の情景も寿恵比楼での見聞が元になっている。

前述の「沼」は登場人物の心理を絵に代弁させるという手法をつげが初めて用いた作品であり、蛇や猟銃を男根の象徴として用いるというフロイト的な置換が行われている。「海辺の叙景」の不安を誘う最後の見開きコマも、ストーリーを綴ることに終始していた初期作品には存在しない印象的な表現だ。「チーコ」はKという女性との不首尾に終わった同棲生活を回想して描かれたもので、私小説的手法が意図的に用いられている。後の作品への連結ということでいえば「李さん一家」は、つげの世捨て人願望が現れた一作である。「無能の人」のつげはここから始まったのだ。

(800字書評)

杉江の読書『つげ義春全集1』

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杉江の読書『つげ義春全集8』

11/4(金)「すごいよ! 昭和マンガ恐山」田中圭一さんイタコ漫画イベントはつげ義春特集

tanakasugie

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