街てくてく~2018年の松本古本屋歩き

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所用があって長野県の松本市まで行ってきた。

先月末に10日間ほど入院して以来ずっと引きこもって生活をしていたので、初の遠出である。用事そのものはすぐに終わった。空いた時間を使って松本市内の古本屋を回って来たのだが、わずか4kmも歩かないうちに例の視界不良になり、同行していた子供に助けてもらう羽目になった。

情けない。箱根から三島まで、一日に36km、約9里を歩けたことを思うと、わずかその10分の1である。しかし文字通りの病み上がりなのだから無理は禁物だと自分に言い聞かせた。

松本市は学都を自ら名乗るほどで、文化都市である。市内に古本屋も多く、往時は繁華街を巡るだけで十指に及ぶ店舗を訪ねることができたとか。しかもそのすべてが個性豊かな選書をしていたとあって、期待をしていた。しかし昨今は、どこの町を訪ねても店じまいの残念な話を聞かされることが多く、過度な期待は事前にしないほうがいい。わずか数年前の情報があっという間に古くなってしまう時代である。

松本市内の古本屋地図は、老舗のアガタ書房が配布しているこちらの地図が基本情報となる。これに沿って、確認できた範囲で情報を更新しておきたい。

松本駅を起点にした場合、まずは公園通りを東に歩いていく。パルコを通り過ぎたら、次の通りを北に入ったところにあるのが慶林堂書店である。蔵であった建物を古本屋として用いていたという個性ある書肆だったが、Google 上の情報では閉業という表示が出る。実際に店の前まで行って覗いてみたが、その通りのようだった。

さらに東へ進むと、前記のアガタ書房がある。レコードなども置いてあるし、郷土史や幻想文学の品ぞろえもよく、棚を見ているだけでも楽しい店だ。長野の古本屋ということで自然と力が入るのか、山岳関係の棚も充実していた。ここで後述する拾い物があった。

引き続き東へ進む。源地の井戸の手前にあった細田書店は数年前に閉店した由で、店舗の痕跡もなかった。その先で大橋通りに行き当たった先が松信堂書店の所在地のはずである。過去の記事を見るとかなり年輪を刻んだ店のようで、床が抜けそうなほどに老朽化が進んでいるとの記載もあった。移転したのか、現在の所在は確認できず。

その大橋通りを北に進んでいくと、女鳥羽川につきあたる手前の左側に書肆秋櫻舎がある。以前は川向こうの縄手通りに店を構えていたのが移転してこの位置になったそうである。棚の見甲斐がある古本屋で、四囲の他、中央に二列の棚がしつらえてある。その左は主として幻想文学、右は評論やサブカルチャー関連の本が店主にはわかるのであろうグラデーションを描きながら配置されており、左右に棚を見ていくと発見がある。その裏は映画や芸術関係が多く、幻想文学関連の裏は文庫の他希少価値の高い漫画本、山岳書、児童文学が目立った。実はここで三点買いたい本が見つかったが、予算との折り合いがつかず断念している。近所に住んでいたら数日間逡巡して結局買ってしまったような気がする。

この書肆秋櫻舎の手前が中町通りという蔵造りの建物が並ぶ観光名所になっている。それを先ほどまでとは逆に西へ向けて歩いていくと、本町通りを越えたあたりに高美書店がある。立派な店構えで、最初は新刊書店なのか古本屋なのか判別がつかなかったが、中に入ってみるとその両方が置いてあった。棚の状態も中途半端だったので、いずれかの形態に移行中なのではないだろうか。

少し戻って本町通りを松本城のほうへ北上していく。城に到達する手前左側に青翰堂書店がある。1/20のスケールで松本城を再現した建物が有名な、アガタ書房と並んで松本の古本屋の象徴とも言うべき店だが、残念ながらこの日は休業していた。

以上である。これ以外に店内でカフェ営業もしている想雲堂、さつきBOOKS、古書電線の鳥が健在であることはホームページなどの情報で確認しているが、新刊も少し置く古本屋だという三洋堂書店が健在かどうかはわからなかった。

結局松本で買い求めた古本は二冊。いずれもアガタ書房である。

一冊は『海外山岳小説短篇集 ザイルの三人』(1959年。朋文堂)。A・E・W・メイスンの短篇「青春の氷河」が収録されているので、以前から手元に置いておきたかった本である。表紙がぼろぼろだからなのか、思ったよりも相当安い値付けがされていた。読めればそれでいいのである。訳編は妹尾韶夫で、戦前に出た『青春の氷河』から5篇を入れ替えた構成になっている。サキやビアスなども入っており、ぱらぱらといくつか読んでみた限りではアンソロジーとしての質は非常に高い。

もう一冊はトマス・マッゲイン『スポーツ・クラブ』(1971年。角川文庫)である。マッゲインはハヤカワ・ノヴェルズから『モンタナの夢の丘』が出ている。訳者はどちらも浅倉久志で、『スポーツ・クラブ』はあとがきによればミシガン湖に近い釣猟クラブを舞台に「地方色ゆたかな美しい風景描写と、ブラック・ユーモア的な笑いの横溢する、おもしろい読物」で、「クラブ全体が狂気の渦に巻きこまれ、ラブレー的な破局へと突進する」という展開が実に楽しそうである。マッゲインは長く活動しているわりには翻訳が二冊しか出なかった。今気になって調べたら、先頃なくなったマーゴット・キダー(〈スーパーマン〉シリーズのロイス・レイン役が有名)と1970年代に結婚していた時期があるらしい。

この日は浅間温泉に一泊。翌日も体調を整えるべくまた少し歩いてみたが、初日ほどには難儀しなかった。どうやら、陽射しと気温がきついと駄目なようである。しばらくは自宅付近を歩いてリハビリしていくつもりだ。

松本駅前にて。後ろの水玉は松本市立美術館が草間彌生展を開催中のため。

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